連載小説
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逃げ出せない

いつもは朝から夕方まで明るい太陽の下、家の外で遊んでくれるけど今日は珍しく家に誘ってくれた。ぷにぷにした鱗の背中に乗せて連れていってくれた。
風がそよいでとても気持ち良かったんだ。


友達の家は外と比べると、とても高い岩山の中にあって、暗い冷たい所だった。
洞窟の奥の薄暗いところで僕は友達に聞いた。

「なにしてあそぶ?」

「…一緒に昼寝しようか」
「え、まだ遊びに来たばかりだよ?」

「…いいから」

暗闇の中で竜はそう子供に喋りかけながら、ふうとひと息、子供に浴びせかけた。
「はぅ…くすぐったいっ…どらごんさんの息って…何だか…甘い匂いが…する」

少し催眠効果が掛かって子供の意識がまどろみかける。
するとまた、子竜は優しく顔を舐めてあげた。
彼なりの優しさかこの上ない旨さか、子竜はいささか嬉しそうな表情を浮かべた。


またふうっと優しく息を吐くと、君はまた僕に笑いかけてくれたね。

嬉しいんだね…僕も嬉しいよ…今なら君を……


子竜はきらきらとただ純粋に目を輝かせてはあはあと息をあらげていた。

「ねえ…どらごんさん…何だか…眠たいよ…」

「そうだね…僕も…」

そう言うと子竜は子供の傍に寝そべり自分の腹の方にそっと抱き寄せてあげた。
「…とっても暖かいよ…どらごんさん…」

「うん…僕も…暖かくて良い気持ちだよ…」



はあ…きみ、ってとってもあったかいよね…本当に……食べちゃいたい位…大好きだよ…
そんな可愛い笑顔みせられちゃったらさ…
もうっ…我慢できなくって…


「はあっ…はあっ…ぃたいっ…」

「あ、あれ…どらごんさん…?」

子竜は自分でも気付かないはあはあ鼻息を荒くしていた。
だらしなく開いた口の端からは太い涎の糸がねばつき始めている。


友達の様子がおかしいのに気づいた彼はどうしたのかと何回も呼び掛けてみるがまるで聞いていないようで、ぞくぞくと心の底から不安が滲み出してきた。

「……ねえ…遊ぼう」


「え…どらごんさんだ、大丈夫?」


なにが…なにがあったのか分からないけど…今のどらごんさん…なんだか怖い。体ががっちり掴まれて動けないし…うっ…爪が体に食い込んでっ…いっいたいっ…

「ど、どらごんさんい、痛いっ!!やめてっ!」

「あっ…ごめんっ…、ちょっと待ってて」

力を込めて叫ぶとやっと元に戻ったみたいで力を弛めてくれた。
食い込んだ爪痕から血が赤く滲んでじーんと熱くなる。けれど後の言葉が気になって顔を上げようとした途端、
   ガプッ

「え……?」

ザクリと恐ろしくぐろい音が自分の耳をサッと通り抜けたかと思うと、右肩に噛みつかれた。
咄嗟の事に彼は声を上げることが出来なかった。
…代わりに別の声が耳元を通り過ぎたのだ。







"ごめんね…♪"
と。
こうするしか無かったんだよとばかりに、その言葉は謝罪というより明らかに愉快だという風な口調。
まるで自分を苦しめて楽しんでいるようにしか聞こえなかったのか、悔しさと悲しさが一気に込み上げてきて、涙がポロポロ流れた。
歯を喰い縛り、肩から血が流れ出す激痛に耐えながら顔を上げると、
彼は友達の顔を睨み返すことも出来ずにハグゥッと首から上を一瞬でくわえ込まれた。
重厚な水分を含んだベールが彼の頭を包み込みその間、二秒間ぐらい息が詰まりそうになる。
そのたった二秒間で一気にごくごくっと水でも飲み干すかのように子供の小さい体は丸呑みにされた。

ぱんぱんに膨れた腹を押さえつけ固くひんやりとした地面に俯せになると、


「……また夕方になったら遊んであげるからね…」

とでも呟きながら僕は食後の眠りに就いた。

口の中に残った塩水が妙に美味しく感じられた。
13/09/24 05:35更新 / みずのもと
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■作者メッセージ
幼い人の子一人でお腹結構膨らむくらいだから、体格差がそこまであるわけでもないっス。

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