連載小説
[TOP] [目次]
前編
 


 ここはとある寂れた町の一軒の酒場。あたりはまるで嵐が過ぎ去ったかのように静まり返っており、たまに吹き抜ける風が地面の砂を巻き上げるばかりであった。しかし、この酒場のみは、客の入りがよく、賑わっているように見える。それもそのはず、ここはただの酒場ではなく表の世界では出回らないお宝、財宝などなどの情報を扱う賞金稼ぎや探検家などが集う隠れ家のような場所であるからである。
 そこにぽつんと一人カウンターに座り、店主のような人の良さそうな中年の男性となにやら会話をしている年端もいかない少年の姿があった。そのまだあどけない表情は酒場の雰囲気とは明らかにミスマッチである。子供が一人でいて無事に出ていけるほどここの治安は良くはないだろう。しかし、周りの大人たちはごく自然に振る舞い、またあるものは羨望を含んだまなざしでカウンターのほうを見ているのであった。

「なんだか視線が気になるな……」
まだ声変わりもしていない高い声で落ち着かなそうにその少年は話した。

「それもそうさ、長年誰もたどり着けなかった遺跡に行ってお前が財宝を取ってきたんだから。注目を浴びても仕方ない。もっと堂々としていたらどうだ?アスタ。」
「そんな注目されるほどのことじゃないって、財宝を守ってたガーディアンもそこまでの強さじゃなかったし……大人たちが情けないだけだろ?」

このアスタという少年は、先日探検家たちが何人も帰らぬ人となった遺跡に行き、ほぼ無傷で財宝を持って帰ってきた。とうの本人はあまり自覚していないが、探検家としての素質はかなりあり、特に剣術を用いた戦闘センスはかなりのものであった。そして…何よりアスタは魔力を有していた。この世界では、普通魔物と呼ばれる生物のみが魔力を持ち、時には魔物から作った魔法道具を利用して生活している者もいる。しかし、ごくまれに魔力を持って生まれてくる人間がいる。アスタは、そんな魔力持ちの1人であった。


「ははっ、随分生意気になってきたもんだな。そこで、アスタにいい情報があるんだが…」

そう言うと店主は少し険しい顔になり、周りに聞こえないように小声で言った。

「お前に依頼をしたいという人がいる。」
「…依頼?」

アスタは怪訝な表情で店主の顔を見上げた。アスタは無名な探検家であり第一まだ12歳の子供である。依頼をされるというのは初めての体験だった。

「ここから200マイルほど東に行った小さな村の村長からの話なんだがな、お前の探検家としての腕を見込んでとある調査をお願いしたいそうだ。報酬もかなり弾む。この仕事が成功すれば、お前の目標としている金額が溜まるはずだ。」

アスタに提示されたその報酬額は先日手に入れた財宝の総額をも軽く上回るものであった。

「こんなに貰えるなんて...その調査ってどんなの?」
「最近、村の子供が次々と行方不明になっているらしい。大人たちも総力をあげて周辺を調べたが何も手掛かりは得られなかったんだと。」

アスタはすぐに自分をその事件の囮調査に使おうとしているのだと感づいた。普通ならこんな危険な仕事は断りたい。しかし、先日ガーディアンを倒した驕り、そして破格な報酬によってアスタの口からは仕事を引き受けるという旨の言葉が発せられていた。

「これが村の場所の地図だ。無事に成功することを祈ってるぞ。」

そういうと、店主はアスタに地図を手渡し肩をやや強めに叩いた。














酒場を出発してから2日、馬車をいくつも乗り継ぎ、アスタは目的の村に辿り着いた。村の雰囲気は活気がなくあまり人が出歩いている様子はない。もう日が沈みかけているからであろうか。
 アスタはまず依頼主である村長の家を訪ねた。周りの家より大きく作られた家のドアをコンコンッと叩くと、いかにも村長というような風貌をした腰の曲がった老人が迎え入れてくれた。
 家の中に入ると、アスタの目に、椅子の上に借りてきた猫のようにチョコンと座っている同い年くらいの少年の姿が映った。軽くその少年に会釈をすると村長に誘導され村長の部屋に向かい合わせに腰をかけた。

「それで…今回の依頼ですが、アスタさんには最近子供たちが行方不明になっている現象の解明、できれば解決をお願いしたいのです。」
「…了解しました。それでは今回の事件についての細かい情報を教えてください。」

村長はおもむろに話し出した。

「最初に子供がいなくなったのは2週間前のことです。帰りの遅い子供がいるとの連絡があったので、村民で近くの森や隣村への道を探索しましたが、いっさい手掛かりは得られず…。最初は不幸な事故だと思っていましたが、それから行方不明になる子が増えて現在7人がいなくなっており、我々は大した対抗策を練られず困り果てております…。」

「あの山の中は探したのですか?」
窓から見える、村の隣にそびえる山を指してアスタは尋ねた。山の下には森が茂っているのでおそらく村長の言っている森とはあれのことだろう。

「あの山は村の神聖な場所、つまり神域となっていて我々は規則で立ち入ることが出来ないのです…ですが、山は一か所からのみ入ることができ、その入り口もいつも見張りがいるのでそこで何かあれば気づくでしょう。」
「そう…ですか…」
「あそこには調査といえども立ち入らないようにお願いしますね。」

アスタはゆっくりと頷いた。




「では、今日はもう暗くなってしまったので私の家でゆっくりしていってください。」
お言葉に甘えて、アスタは夕飯を御馳走になり案内された自分の部屋へと入った。





(村長はああ言っていたが、神域とやらが怪しい…でも、見張りをどう掻い潜るか……)

「失礼しまーす!」
「ふああっ!!」

考え事の最中のいきなりの訪問者にびっくりして思わず背筋が伸びる。声のした方をむくと、先ほど村長と話す前に見かけた少年が立っていた。食事の際にも一緒だったが、一言も話してはいなかった。村長の話では、1ヵ月前衰弱した状態で家の前で倒れていたらしい。一命はとりとめたものの、記憶障害が起こり自分がどこから来たかなぜ倒れていたか、一切思い出せず、ふさぎ込んでいると聞いていた。

「ど、どうしたのいきなり…!」
「君、探検家なんでしょ!僕と同じくらいの歳なのにすごいね!よかったら…いろんな冒険の話教えてくれる?」
「ん〜…まあいいよ。」
「ありがとう、アスタ!僕の名前はソルノ、なぜか自分の名前だけは鮮明に思い出せるんだけどね…」
「記憶がないんだっけ……村長に聞いたよ。」
「うん…でも、ここのみんなは優しいし生活には満足してるんだ。何事も前向きに考えないとね!」


アスタは先ほどまでの振る舞いとは異なり明るいソルノに困惑しつつも、今までにいった遺跡、ダンジョン、戦った敵などを話した。同年代の人と話せるのが久しぶりだからだろうか、つい話が弾んでしまう。







「あぁ〜おもしろかった!」
「僕も久々にたっぷり話せて楽しかったよ。」

「それでね…アスタ、少し相談があるんだけど」
「え?」

その時のソルノはまた雰囲気が異なり、恐ろしいほど冷静な顔をしていた。一体どれが本物のソルノなのか、分からなくなるほどに。

「僕たちで神域に行ってみようよ。」
「…!!君は一体何を…」
「だって、アスタもこっそり行こうとしてたんじゃないの?僕も村の人たちがかたくなに守ってる場所に興味あるし、なにより秘密の抜け道見つけちゃったんだよね。」
「…本当か……??」

アスタのソルノへの警戒心は強まっていくものの、あの神域に入れるなら悪い話ではないと考え始めていた。しばらく静寂が続いた後、アスタは決断をした。

「分かった。行こう。」
「その言葉を待ってたよ。付いてきて。」

ソルノは、不敵な笑みを浮かべるとこっそりと家を抜け出し、秘密の抜け道へと歩き出した。











〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「ここが抜け道だよ。」

ソルノは暗闇のある一点を指して言った。
指差した先を目を凝らして見てみると、山のふもとを取り囲む壁の一か所に、子供が辛うじて通れそうな穴が開いていた。周りに見張りらしき人の姿は見えない。

(子供だけ通れそうな穴…やっぱり、子供だけがいなくなっていることとこの山には何か関係が……)

「アスタ、はやくー!あんまり遅いと見つかっちゃうよー」

気が付くとすでにソルノは穴をくぐって向こう側へと行っていた。あわててアスタも穴をくぐって山へと入る。

「ここからは、何があるか分からないから僕が先に行く。ソルノは離れないように着いてきて。」
「うん、わかった。」




山の中は、いたって普通といった感じで特に変わった様子は見られなかった。木々が生い茂り、耳を澄ますと様々な動物たちの鳴き声や足音が聞こえてくる。
ただ一つアスタには気にかかっているところがあった。
(奴隷として子供だけを狙う盗賊の仕業…と考えていたが、少しその犯行には無理がある。となるとやっぱり、この山に棲みついた魔物の仕業…?警備は飛べば掻い潜れるがそうなると誰も目撃者がいないというのがおかしい…。そもそもそんな高度な知能を持った魔物がいるのか…?)



「………タ、...けて.........スタ!!」

その声にはっと気づき、振り返るとそこにソルノの姿はなかった。



「ソルノ…?……!ソルノ!!どこだ!返事してくれ!!」


大声を出して辺りを探すも返事が返ってくることはなかった。



「くそっ!!」
己の不甲斐なさに思わず地面にこぶしを叩きつける。
(考え事なんてしてる場合じゃなかった…ソルノを守ることが最優先事項だったはずなのに…。)


早く見つけないとソルノの命が危ないかもしれない、そう考えたアスタは頂上を急いで目指した。頂上にソルノがいるという確信はなかったが、何も情報がない今、アスタにできることはそれだけであった。また、脳裏にうっすらと広がるある仮定を確かめるために。



15/11/05 22:16更新 / あーる
戻る 次へ

TOP | 感想 | RSS

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35b