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小さな村の小さな少年の物語 - 竜の力、求めし王
フィーが初めて帝国の兵を目撃してから随分と時間がたってしまった今、一刻も早く村の状況を確認せねばならない。呑気に休んではいられない。幸い、ここは村からさほど離れていない、フィーもよく遊びに来る場所の様だった。

「急がなくちゃ・・・あっ・・・れ?」

無意識に立ち上がってふと、森の中を必死になって逃げ回って、うっかりルミナがいた不思議な場所に通じる崖から落ちた時に右足を酷く痛めていたことを思いだした。しかし現在、自分は何故か何事もなく立っている。いつからだろうと、困惑したフィーはしばらくして動けずにいた。
それどころか痛めていたときは動かすこともできなかった右足が今では、両足共に、羽が付いているかの如く軽くなっている。

よくよく考えてみれば、今までのふれあいから察するにルミナはまだ成体にはなりきれていない様子だったが、されども神竜。その血を飲めばたちまち不老不死になれるという人知の枠を外れた力が手に入ると言われている、まさしくその神竜であるのだ。ルミナにはそれ以外にも不思議な力があるかも知れない。

気にはなったが今はそれどころではない。すぐに出発しようとして少し走り出したその直後、その後を追う巨体に似合わない、軽快な足取りで付いてくるルミナのトストスという足音を聞いて、一番大事なことを思いだした。そもそもルミナは兵隊達の目標であるし、兵隊が既に村にたどりついているのはほぼ確実ともいえる。もし連れて行けば今が夜だとしても巨大なルミナを見つけるのはそう難しいことではない。ルミナを危険にさらすことになる。

ルミナにここで待っていてもらうために、ルミナに伝わるようあれこれ試行錯誤しながら意思伝達を試みた。初めは遊んでくれるのかと勘違いしてじゃれ付いて来たり、ようやく意思が伝わったと思ったら頑としてそれを拒まれ続けたが、しばらく説得してなんとか納得してもらい、大きなルミナでもなんとか隠れられそうな身の丈の草が群生していたのを発見できたので、そこへ誘導して俗に言う『ふせ』の体勢をとってもらった。決して完璧に隠れきれている訳ではないが、何もしないよりかは幾分安心できる。

「ごめんよ、ルミナにはちょっと危ないかもしれない所に行かなくちゃいけないんだ。大丈夫。すぐ戻って来るから。もし村が安全だったら一緒に帰ろう?ね?」

遥か昔に経験したデインとの別れが今と重なっているのか、いかにも不安そうな目をしたルミナが仕切りに甘え声をたてながらフィーの手に自らの顔を刷り寄せてくる。するとフィーはルミナの大きな鼻面を掻き抱いた。少しでもいい、ルミナの不安を消すことができることを願いながら。

「じゃあ・・・行ってくる・・・。」

暫くルミナを抱きしめて、フィーは後ろを振り返り、タッと村に向かって走り出した。



いつも森へ遊びに来る度に通る道はちょっとしたフィー専用の獣道のようになっていてこのようななんちゃって獣道は森の色んな所に点在しており、それぞれフィーのお気に入りの場所への最短ルートになっている。裏返せば村への最短ルート、ということだ。物心ついた頃から通いつめていた森での思いでの賜物である。
ルミナといた場所から一番近くにある道をあっという間に探しだし、鬱蒼と生い茂る草木を掻き分け掻き分け、全速力で村へと向かった。

村へはそう時間はかからずほんの数分で村へ辿り着いた。村は静かで辺りに人の気配は感じられない。村へ入るための門は固く閉ざされている。その上、村の回りは高い塀にぐるりと囲まれているため中の様子が全く把握できない。
門からは入れないのを悟ったフィーは暗くてよく見えないが塀の根本辺りを僅かな月明かりと手の感覚を頼りに探りながら塀に沿って歩き、目当ての場所に辿り着いた。そこには小さな子供が一人何とか通れる位の穴が空いており夜中にこっそり星を見に森へ出掛ける時にたまに使っていた。これまたフィーしか知らない、専用の抜け道である。しばらく使っていなかったので塞がれていないかと心配していたが、どうやらまだ残っていたようだ。

目当ての場所に近付くにつれて、村の現状についての不安が自分の心の中でむくむくと膨れ上がっていくのをフィーは感じていた。辺りの静けさが、ますますその不安を煽り、額からは冷や汗が滑り落ちていた。

門を閉じたのは、帝国の行動を先回りしての事か、それとも既に帝国の兵達によってのっとられてしまった後なのだろうか。

必死に後者でないことを祈っていたが、その希望もすぐに儚く散った。

「よいしょっ・・・と・・・っ!」

少しきつかったが何とか通ることが出来た。そして一息つく間もなく何やら男性の話し声が聞こえて来たので慌てて近くの植木の影に隠れ、様子を伺ってみることにした。

「ルインズ隊長、先程森の中で捕らえた者なのですが、いくら森で何をしていたのか問い詰めても「弟は何処だ」の一転張りで・・・恐らく弟とは探索中に捕らえ損ねた例の子供の事だと思われます。生存確認はしておりませんがかなり高い崖から落ちたらしいのでそのまま死亡したという事になっております。いかが致しましょうか。」

どうやらフィーは死んだ事になっているようだ。
他の兵士とは少し違った鎧を身に付け、年は50半ば位だろうか、白髪の混じった短髪のルインズと呼ばれた隊長格の男は眉間にシワを寄せ、大きくため息をついた。

「例の少年の事は別として、相手はまだ成人もしておらんただの童(わっぱ)だろう、童相手にそこほど苦労するとは情けない。」

その言葉に部下らしき兵士が慌てて前述に付け足した。

「しっ・・・しかし・・・あの者、やけに気が強く精神力も大したもので、拘束するまでに初めに発見した兵士数名に多少怪我を負わせた上に、手練れの兵士三人で何とか捉えられる様な狂犬でありまして・・・。」

フィーは確信した。今話されているのは兄であるライズのことだ。ライズも実は森に育てられた様なもので、フィーがもっと幼い頃、一緒に森へ入ってよく遊んでいた。その恩恵か身のこなしも素早く喧嘩にもめっぽう強かった。しかしなぜそのライズが森で捕まってしまっているのだろうか。その答えはこの会話からして推測するのは容易いこと。ライズはフィーを探して森へ入り、そして捕まったのだ。

「ほう、それは我が隊にも欲しい位の人材だな。この様な長閑な村でよくその様に育ったものだ。ならばもうよい。拘束して詰所に放り込んでおけ。では、私はお呼びが掛かっておる故、王の所へ行く。その後で私がその童の様子を見に行ってやろう。」

「ハッ・・・」

二人がどこかに行ったのを確認し、すぐさま移動を開始した。村の皆が捕まっている。その中には兄も含まれている。しかも自分のせいで。それに村人達は一体どうなってしまったのだろうか。怒りと悔しさで胸が苦しい。いつの間にかフィーの目からは涙が溢れていた。

夜中だとはいえ、村の家一軒一軒に一つも明かりがついていない事や、それぞれの家に見張りがほとんど立っていないことから村人が自宅に監禁されていることはまず無いだろう。警備が薄すぎる。もしかすると広い場所に一ヵ所に集められているのかもしれない。場所は恐らく村の中心にある広場か、建物なら村の役所といったところだろう。

ひとまず一番近い広場から様子を見に行くことにした。広場に近付くに連れて広場の方が、やけに明いことに気がついた。

また同じように植木からこっそりと様子を窺うとどうやら広場は兵士たちのベースキャンプとなっているようだ。たくさんの兵士たちが至るところに設営されたテントを出入りしているのがよく分かる。村人とおぼしき人は見当たらなかった。そして広場の中心にほど近い場所には他のテントとは比べ物にならないほど大きく、豪華に装飾を施されたテントらしき物(もはや立派な一軒家位の大きさ)が設営されているのも少し目に入った。恐らくあれにはこの探索部隊に同行しているという帝国の王がいるのだろう。

しばらく様子を伺っていると兵士が二人すぐ近くまで来たので慌ててその場に縮こまってやり過ごそうとしていたら突然広場が騒がしくなった。
何事かと植木の隙間からどうにか見ようと苦労しながら身をよじりながら何とか見えた光景は驚くべきものだった。

「放せっ!このっ・・・!何処へ連れて行く気だ!チクショウ!弟を・・・フィーを返せ!」

ライズが先程の話の通り詰所へと兵士数人係で連行されていた。思わず植木から飛び出しそうになったがグッとそれを押さえる。今は捕まってしまうわけにはいかない。

「黙って大人しくしておけこのクソガキが!お前の弟とやらはとっくに森の中で崖から落ちて死んでいる!俺はお前と同じ色の髪をしたガキが崖から落ちたのをこの目ではっきりと・・・っ!」

「うるせぇ!嘘だ!絶対に生きてる!お前らフィーに何しやがった!このっ・・・!!!」

バキッ

「ガッ!・・・ハッ・・・!」

話に一切耳を傾けようとせず、激しく暴れるライズに苛立った兵士がライズの顔を思いきり殴った。それとほぼ同時に少し離れた位置にいるフィーの耳にも届く位の大きな打撃音が響く。
するとライズがガックリと首を項垂れて動かなくなった。殴った兵士がニヤリと不適に笑う。今のフィーにはさながら悪魔のような面立ちだった。

嫌だ。やめてよ。

体を押さえていたなけなしの意思が限界を迎え弾けた頃には、正面にいた二人の間をあっという間に駆け抜け、ライズの元へと何も考えずに走っていた。
完全に不意を突かれた二人は暫く呆気に取られていたがすぐに我に帰りフィーの向かった方へ叫んだ。それに気がついた兵士達が次々と集まってきてフィーを追う。

フィーがライズの目の前まで差し掛かったときに、腕が捕まり、そのまま引き離される。振り払えない。兵士が次々とフィーを取り囲み手を伸ばしてくる。

「嫌だよ・・・ライズ兄ーーーーー!!!!!」

ヒュウゥゥゥ・・・・ビュオオォォッ!!!

フィーが腹の底から声を絞り出す様に兄の名を叫んだその瞬間、一陣の風が吹いたかと思えば、突如フィーを中心に大きな竜巻が発生した。それと同時にフィーを取り囲んでいた兵士達が悲鳴をあげながら次々と吹き飛ばされて行く。

飛ばされた兵士たちがボトボトと落ちてくる世にも奇妙な光景の中に、月明かりを身に纏い、美しく輝く一匹の竜が上空より舞い降り、フィーを庇うように翼を広げ、周囲にいる兵士達に向かって威嚇した。

その一番近くにポツンと何故か取り残されたライズを殴った兵士がいて、腰が抜けているのか、驚愕のあまり顔をひきつらせながら暫く放心していたが、同じくライズを連行していた兵士がとっくに逃げ出しているのに気がつくや、一気に顔色を真っ青にして短く奇声をあげて慌てて逃げ出してしまった。

フィーはその場に放置されていたライズに駆け寄ると身体中の至るところにある真新しい痛々しい痣や傷がはっきりと見てとれた。背中に腕を添えてその上体をそっと起こし、何度か名を読んで軽く揺すっていると、ライズが目を醒ました。

「グッ・・・ふ、・・・フィー?」

「よかったっ・・・兄さんっ」

安堵のあまり、目からはポロポロと涙が溢れ、危険な状況であるのにも関わらずここまで堪えていた感情が一気に爆発したのか、ワッと声をあげて泣くフィーの頭を優しく撫でながら、ライズは優しい声でよく頑張ったなと誉めてくれた。


すると


「これは一体何事だ!!」

フィー達が感動の再開を迎えている中、突如辺りに響きわたった怒声に目の前の光景に唖然としていた兵士達がサッと二手に別れ、その間に向かってひざまづいた。
兵士達の間から歩いて来たのは、先程フィーが見た、ルインズという名の帝国軍隊の隊長と、それに連れられて、この事件の発端にである帝国の国王が姿を表した。

「おぉ・・・これが神竜とやらか・・実に美しい。不老不死、ようやく手に入れる時が来た・・・!」

王を見た瞬間、フィーは戦慄した。
前回の投稿からまたもやかなりの間がありましたが、覚えておられますでしょうか。初めましての方は初めまして。ご無沙汰してます、カイルです。ちゃんと生きてます。どうでも良いですが、この前また1つ老けました。

今回もかなり間が空いている分文章力において相変わらず不安を隠しきれません。己の性格がそれに拍車かけまくってます。(^^;

敢えて言います。(何故)今回、会話を多目にしてみた『つもり』です。ハイ。そうです『つもり』です。(オイ

物語もそろそろ終盤となって参りました。あと二話位をとりあえずの目処としております。どうしようもないヘタレですが、どうか最後までお付き合いして頂けたら光栄です。

閲覧、ありがとうございましたっ><[14/12/23 19:10 カイル]
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