読切小説
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貴方へ捧げる私のララバイ
ーーー貴方が私を拾ってくれたこと、私は今でもその時の記憶は残っています。ーーー

大雨の中、まだ小さな体で白の毛が薄い茶に染まった私を、貴方は抱き抱える様に私を抱え、貴方の家に入れてくれたことを。

始めは貴方が怖かった。
けどそんなことなかった。
貴方は私を家に入れてくれただけでなく、私を可愛がり、優しく接してくれた。
貴方は優しいヒト。
そう感じた私には、貴方に対しての怖い感情なんて何1つなかった。



そんな私は貴方の家で、貴方と暮らした。
毎日のように私を撫で、一緒に遊んで…。
貴方から受け取った愛情はとても嬉しかった。

貴方の愛情を貰いながら、私は少しずつ成長し、いつしか貴方を越える大きさになっていた。
貴方を見上げる様なことはなくなってしまったけど、貴方は私の成長を親であるかのように喜んでくれた。
嬉しい。
そんな感情に私は溢れていた。



しかし、私が成長するにつれ、私の体が必要とする食べ物の量は、小さい頃の何倍にもなっていた。
そのため貴方は、その食べ物を養おうと必死に外へ出て、夜遅くまで働いていた。
私は家の中でたった独りきりの時間を過ごしていたが、貴方が働いてくれているのに文句なんて無い。
貴方が帰ってきた時には、疲れた表情も何処かへ飛んでいってしまったかの様に、笑顔で私に抱きついてくれた。
その時間が、私の中で一番幸せだった。

そして次の日も、その次の日も貴方は毎日朝早くから外へ出て、働いていた。
今日も玄関まで見送りへ行き、貴方が家の外へ出てしまうと、すぐ寂しくなってしまった。
外の景色をずっと眺めるが、時間は少ししか経っていなくて、貴方が帰って来る時間が待てずにいた。
眠って目を覚ましても、貴方が帰って来る時間ではなく、とても不満だった。
でも、気持ちの落ち着かない時間を乗り越え、貴方が家に帰ってくると、私はすぐに玄関に駆け寄り、貴方を迎えた。
今日も、貴方は笑顔で私を抱きしめてくれた。
暖かい貴方の温もりを感じなければ、今日が終われない。
そう感じれる程嬉しいものだったのです。




私の成長は止まることもなく、まだ大きくなり続けた。
やがて、貴方の倍近くまでの大きさになっている。
私が大きくなるものだから、貴方は更に遅くまで働くようになっていった。
それと同時に、私が貴方を待つ時間も長くなっていった。



貴方が今日の仕事を終え、帰ってきた時、私は貴方に抱きしめて貰おうと玄関まで出迎えた。
私を抱きしめた時の貴方の顔にはいつもとは少し違う、苦笑いだった。
何かあったのか…。
そう心配しつつも、私は貴方が居る安らぎの家でそっと眠りについた。



そんな生活をいつまでも続けていた頃だ。
貴方は少しずつ痩せていき、活発な動きがあまり見れなくなっていた。
貴方はいつも大丈夫。そう私に言うと仕事のため、外へ出ていった。
やはり心配だ…。
貴方だけは健康でいてほしい。
私の心にそんな感情。
それは日に日に大きくなっていった。

ある時だ。
貴方が家の中でぐったりと倒れ、ゼェゼェと息を切らしていた。
私はすぐに心配して駆け寄ると、私に出来ることはないのか…。
と、辺りを懸命に見回し、貴方の顔を見つめた。
貴方は、視点の合わないような震えた目で私を見て、こう言った。

ーーもうダメかもしれないーー

…!!
私はそれを聞いた瞬間、体が固まってしまった。
…嘘だ。認めたくない…。

貴方はそんな状態でも、微かに微笑むと、こう続けた。

ーー僕を食べてくれないか?ーー

弱々しく掠れていく貴方の声は、私の固まった体を少しずつ取り戻していくような気がした。

だけど…そんなことはできない。
私は貴方にそう言い返すと、貴方は首を振った。そして、

ーー最後のお願いだ…頼むーー

と。
私の意思は、その言葉に否定しつつも必死に私がすべきことを考えた。

何をすればいい…何度も自分に問いかけた。
貴方が目の前で倒れている中では更に気持ちが急かされた。

貴方…御主人様のお願いだ…。
私の恩人のお願い。
その言葉を断ることは決して正しいことではない…。
私は貴方に答えなければならない。

そう、私は決心した。
貴方のために…。

ーーありがとう…ーー

今にでも、貴方は深い眠りにつきそうで、怖かった。
戸惑ってなんかいられなかった。

私は、自分の本能を剥き出しするため、貴方を[獲物]と見なした。
とても辛いことだが、こうでもしないと、貴方を食べることなんてできる筈がなかった。
本能に任せた私の体は、貴方の体をくわえると、少しずつ…少しずつ口内へ引き込んだ。
すぐに視界から貴方が消えてしまうと、寂しかった。
一瞬、咳き込むように貴方を吐き出したい感情に覆われたが、必死に抑えた。

完全に私の口内へ入ってしまった貴方。
今まで感じたことのない様な温もりだった。
貴方の居ない寂しい部屋を見ないために、目を瞑り、そっと貴方を舐めた。
貴方の味が私の中で広がった。
美味しい…。
そう感じれた。
貴方は、苦しそうに息をするだけで、全く動いていない…。

私は、そんな貴方の最後の願いに答えるため、

貴方を呑み込んだ。

ゴクリと小さな音が鳴ると、貴方という存在は、私の中にあった。
お腹の膨らみの中に貴方が居る…。
そっと手を置いてみると、貴方の鼓動と、私の鼓動が一緒になって聞こえた。





その片方の鼓動は、そう長くは続くものではなく、やがて小さくなり、聞こえなくなっていった。

置いた手から感じれる鼓動がひとつになると、急に大きな孤独感に襲われた。

それでも、私は貴方の願いに答えれた。


貴方は私の一部となって今を生きている。
孤独感の中に、貴方の温もりはなかったが、不思議と、私の中にその温もりはあった。

嬉しくも悲しい…。

私から無数に溢れ落ちる雫。
その雫が、部屋に染みをつけていく。
雫を溢しながら私は歌った。



ーー貴方へ捧げる私のララバイをーー
13/06/15 19:57更新 / 三日月の真実
■作者メッセージ
2334文字っ;;

こんな短い文章になってしまいましたが、大丈夫なのか…。
文章として成り立っていないような気がしてならない;;

テスト前の息抜き小説を読んでいただきありがとうございましたっ

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