とある双子
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- 終焉 -

《流血表現に注意》

「レ、レヴィ、仕事の依頼だ。」

「なんだよ、エダ…」

エダは一通り依頼内容を説明すると受話器を置いた。

彼女の背後には、グレーテルがラティアスの姿で立っていてエダの首に鋭い爪を突きつけていた。

「質問していいか?何故バラライカを殺す?もう奴を殺す義理など無いはずだ。なのに、どうしてだ?」

「うふふふふ……あははは…どうしてですって?そうしたいからよ。そうしたいからそうするの。他にはなにも無いわ。」

ベロリ

ラティアスの舌が首筋を舐めた。

「てめぇ…」




夜も明け鳥のさえずりが聞こえる公園で、葉巻を咥えたバラライカは1人噴水に腰掛けていた。

「隠れることないわ。出てらっしゃいな。」

一点を紅い眼で見つめた。

するとそこからラティオスの姿のヘンゼルが出てきた。

「気づいてたんだぁ。流石だね、おばさん。部下だって優秀なわけだ。追いかけっこしてた割には、1人も殺せなかったよ。さぁて、どうしようか、おばさん。せっかくだから何かお話でもする?僕らが…殺したあの男の話とか…」

ラティオスは口元を緩ませて淡々と話す。

「普通なら死んでいたけれど、あの男は随分保っていたよ。最後まで叫んでいたんだ。大尉ーっ、大尉ーって…血のあぶくを吐きながらずうっとね。」

「ふーん。」

「冷たいねぇ、おばさん。でもね、おばさんもじきにあの男のようになるよ。時間があまりないのが残念だけど。」

ラティオスは舌舐めずりして見せた。

「本当に残念だわ。坊やには悪いけど、あなた…ここでお終いなのよ。でもその前に、オイタのことを謝ってもらわないと。ねぇ、坊や。とりあえずそこに跪きなさいな…」

「うふふ、そんなこと言って……」

「跪けぇ‼」

バラライカが怒鳴った直後、1発の銃弾がラティオスの腹部を貫通した。

ラティオスはバランスを崩し、地面に倒れた。

「うっ…いやっ!」

ぐしゃっ

振り上げた腕が吹き飛ばされ、人間の姿へ戻っていき、地面を真紅に染めていった。

「お終いなんだよ、坊や。もう少し理性が働けば気づいたはずだ。自分が餌場に飛び込んだこと…結局お前は、どうしようもなく壊れたクソガキのまま、ここで死ぬんだよ…」

「おかしいや…何…言ってるの?僕は死なない……死なないんだ。だって、こんなにも人を殺してきたんだ。いっぱい、いっぱい、いっぱい、いっぱい…殺してきてる。僕らはそれだけ生きることができる…命を増やせるの…僕らはネヴァーダイ……永遠なんだ………」

「なるほど、それがお前の宗教か。素晴らしい考え方だ。だが、正解は歌にもあるとおりNo one lives forever.(誰も永遠には生きない。)そういうことだ。さて、私はお前のことを酷く責め抜いて殺してもいい。後のことを考えれば釣りの上に得点がつくが、あいにく私はお前のように下品ではない。だから私はお前が死ぬのをただ眺めることにする。その銃創では保って10分だ。お前がこの世を去る数分後、サハロフ、メニショフ両名の鎮魂にあてる……お前には、理解出来んだろうな。」

ヘンゼルは無き崩れた。

「泣くな、この馬鹿者……」

すると、屋上狙撃班の指揮を執っていた軍曹から無線が入った。

「いけませんよ、大尉。肝が冷えっぱなしだった。」

「すまん。私のわがままに付き合わせてしまったな。」

バラライカは空を見上げて呟いた。

「年かなぁ…少し…少し、疲れた……」




逃し屋はとある“依頼人”を乗せて、魚雷艇を走らせていた。

Someday I want to run away
(いつの日か私は逃げ出したい)
To the world of midnight
(真夜中の世界へ)
Where the darkness fill the air
(そこは暗闇が大気を満たし)
Where it's icy cold
(凍るように寒い)
Where nobody has a name
(そこは誰という区別がなく)
Where living is not a game
(生きることがゲームではない)
There, I can hide my broken heart
(そこで、私は傷ついた心を隠すことができる)
Dying to survive
(生き延びることを忘れて)
There, no one can see me cry
(そこで、私は泣き叫び流すことはない)
The tears of my lonely soul
(私の孤独な魂の涙を)
I'll find peace of mind
(そこで私は心の平安を見つけるだろう)
In the dark and cold world of midnight...
(その暗く寒い真夜中の世界で...)

儚い歌…その歌声は透き通る様に美しい。

「良い歌声だ。イカれた殺人鬼には到底思えない。しかし、おかしなものさ。」

ボスゴドラは梶を取りながら呟いた。

「町の恐怖の一夜を演出した悪魔が依頼者だなんて。」

ベニーもビールを飲みながら、気を楽にしていた。

「レヴィは?」

「キャビンの外に控えてるよ。ロックの万一に備えてね…」

キャビンでは歌声の主グレーテルとロックがいた。

「上手だね。どこで見たの?」

「テレビで見たの。この歌を兄様以外に歌ったのは、お兄さんが始めてよ。」

そういうと、ロックの膝の上に座った。

「うふふ、お兄さんはなんだか違う気がするわ。別のところ別の世界にいるみたい。」

「まだ馴染んでないのかもしれない、この仕事に…」

「お兄さんは良い人ね。私、良い人を見分けるのも上手いのよ。」

ボスゴドラのところへバラライカから電話が入った。

「俺だ。バラライカか?」

「何の用かは分かるわね。」

「ああ。この電話も遅いと思ったくらいだ。」

「貴方、何をしているかわかってるの?」

「もちろん。それ込みでの値段を貰っての仕事だ。」

「義理や情ではないわね。」

「迫害主義者に見えるかね?」

「いちおう、ね…私の立ち位置もそれで変わるから。」

「お互い、やらねばならないことをやるまでだ。違うか、バラライカ?」

「そうね。私も打つ手はもう打ったわ。」

「ああ、それらしい連中も見つけたよ。」

ボスゴドラはレーダーに映った海軍に舌打ちをした。

「ベトナム海軍だなぁ。」

「ご名答。大したもんさ…ホテルモスクワの力は…」

「やり合う気かい?」

「バカ言え。こっちは魚雷艇、あっちはミサイル艦だ。癪な話だが、これで海南ルートはオジャンだ。」

「じゃあ、この船でいけるのは、パンカルピナンのエルロイだけだ。」

「ビッグホーンエルロイか?OK、そいつで行こう。」

「連絡つけてくるよ。」


「あーあ、海。せっかく来てるのにちっとも見ることが出来ないわ。がっかり……」

グレーテルは退屈そうに足をぶらぶらさせていた。

「ごめんね。」

「いいわ。慣れてるもの。」

「海は見たことないのかい?」

「シチリアにいたときも、その前の孤児院でも、見ていたのはいつも灰色の壁ばっかり。生まれたのはカルパチアの岩山の中……」

(とある独裁者が、国民に妊娠中絶を禁じた。貧しい楚国に労働力を作り出すためだったが、貧しければ、育てられるはずがない。大量の捨て子たちは国営孤児院に収容され、秘密警察の要因供給源となった。独裁者は殺され、後には愛をかいだ孤児たちが残された。)

「シチリアに引き取られてからは、ずっと血と闇の中…死ぬほど蹴られて血のようなおしっこが止まらない夜もあったわ。兄様とはよく話してたわ。“どうして、神様は私たちにこんなに辛く当たるんだろう”でもね、私も兄様も気づいたの……ほかの子が私たちの前に連れてこられて、泣いているその子をバットで殴ったそのとき…………大人たち…笑ってた……私と兄様も笑った……笑いながら思ったの…これは仕組みなんだって。そう、誰かを殺す事で世界が回り続けているのなら、私たちがいる理由もまたそれだけなの。殺し、殺され、また殺して…そうやって世界はリングを紡ぐのよ…」

「そのために、お兄さんが死んで悲しくないのかい?」

「え?」

その声はグレーテルのものではなく、少し低い声だった。

「何言ってるの?僕はいつも姉様と一緒にいる…だって僕らは永遠に死なない。リングの上で僕らはずっと殺し、これからも殺すために世界がありみんながいて、僕らがいる。だから、僕らはもう悲しくないんだよ。血の匂いも、悲鳴も、臓物の暖かさも……今は大好きでいられる。」

「違う!」

ロックは“彼ら”を抱き締めた。

「違うよ。世界は本当は君らを幸せにするためにあるんだよ!いいかい、血と闇なんかはほんのかけらでしかなんだ!全てなんかじゃないんだ!」

ロックは首筋にチクリとした痛みを感じた。

…彼女が…咬みついていたのだ……

ロックはキャビンを飛び出し、甲板へ上がった。

それに気づいたレヴィがベニーに声をかけた。

「ベニー、ロックを見てやってくれ。アタシはガキを見る。」

レヴィはキャビンに入ると、口元を血で紅くしたグレーテルの顔面にパンチを入れ、鼻血を出した。

「お前みたいな奴でも血は赤いんだな。姉御だけじゃねぇ。お前がくたばらなくて残念だよ。」

「あなたはねぇ、同じ匂いがするわ。血と泥の腐敗した匂い……私とあなたは同じものよ!」

「んなことはどうでもいい。もう一度アイツを揶揄ったら殺す。同じくアタシに不愉快なことを抜かしても殺す…」


甲板ではロックが床を蹴っていた。

「チキショウ!なぜ、何てことなんだ!みんな寄って集ってあの子を鬼にしてしまったんだ。人喰い鬼にしちまったんだ!くそっ!」

そこにベニーが向かった。

「ロック、ああいうものを真っ直ぐ見るな。ここはそういう場所で、それが一番だ。」

するとロックはベニーの胸ぐらを掴んだ。

「俺がっ、俺がっ……!」

「あの子を養うって?無理だ。あの子は殺しを辞められないよ………誰かがほんの少し優しければあの子たちは学校へ行き友達を作り、幸せに暮らしただろう。でも、そうならなかった……ならなかったんだよ、ロック……だから、この話はここでお終いなんだよ、ロック…」

ロックは溢れる涙を止めることができなかった。

船が港に着くとある男がボスゴドラに声をかけた。

「久しぶりだな。」

「ああ、しばらくだ。」

「それが今回の荷かね?」

「ああ。急場ですまんが、旅券は準備できたか?」

「なんとか整えたさ。いつものことだ。」

グレーテルは桟橋に軽く降りると、ロックのほうを振り返った。

「お兄さん、またいつか……またいつか会いましょうね!今度はランチバスケットを持って!」

ロックがほっとしたのもつかの間だった。

男が銃を出しグレーテルを撃ったのだ。

顔は血で真っ赤に染まっていた。

「綺麗だわ……空……」

男は銃をしまうとまた口を開いた。

「ホテルモスクワだよ。ほかに何がある。」

「逃し屋としちゃ終わりだ。」

「南アフリカに息子がいるんだ。まだ25だというのに癌を患っちまってよ。どの道綱渡りも、もうしんどくなったさ。こいつが俺の最後の仕事だ。ホテルモスクワからはそう悪くない額を貰ってる。じゃ、またな。」

それだけ言うと男は去っていった。

「お空が綺麗だとよ…締まらねぇ。」

「ロック、ガソリンを持って来い。死体にかけなきゃな。」

「要らないよ。いいんだ、このままで……青い空を仰いで海を眺めて眠るんだよ……」


+-作者メッセージ
長文になってしまい、申し訳ございません。
18/05/22 07:45 Haru & José(Pepe) & Javier
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