とある双子
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- 復讐のカラシニコフ -

ホテルモスクワにも動きが見られた。

バラライカは総員の前に立って紅い眼を開いた。

「同士諸君。
今夜、ヴェロッキオファミリーが襲撃を受けた。
だが予定に変更は無い。全て想定どおりだ。現刻より状況を開始する。
……サハロフ上等兵、メニショフ伍長はかけがえのない戦友だった。
鎮魂の灯明は我々こそが灯すもの。
無き戦友の魂で、我らの銃は復讐の女神となる!カラシニコフの裁きの下、5.45ミリ弾で奴らの顎を食いちぎれ!」

バラライカが言い終わると全員涙を拭いながら銃を掲げた。

「さあ、ファーストマーチを始めようじゃないか。」


レヴィが指定の場所に着くと、そこには賞金稼ぎたちがこぞっていた。

「黒い日本車だな。」

「そうだ。」

彼らは双子の運転するであろう車のことを話していた。

「おかしいぜ、レヴィ。」

「何だよ。勿体つけてねーで言えよ。」

「バラライカだよ。この世で一番意思返ししたがってる女が姿を見せてねぇ。」

「言われてみればそうだな。」

「ここが本命なら私らはシャットアウトされてなきゃおかしい。で、双子はどこへ行くと思う?」

「理屈は通じねー連中だが、奴らの大本命はバラライカだ。ほかの動きは揺動…いや、行き掛けの駄賃だ…」

「バラライカは確実に双子を殺るつもりでヴィソトニキを動かした…」

「軍人たちは皆プラグマティストだ。憶測じゃ動かねー。双子は絶対裏をかく。」

「みんな、モンタナの山奥で鹿狩りでもやってる気なんだろうが、鹿じゃねぇ。双子どもはコヨーテだ。そんなにやわじゃねぇ。」

「ああ、ここでケツから罠にはまるような連中じゃ、今じゃとっくに墓の下だ。」

「学のねぇ割りには飲み込みが早いねぇ、レヴィ。ってなわけで、ここからホテルモスクワに抜けるルートで一番近い横丁は?」

「チャルクワンの市場を抜けてサータナムストリートを真っ直ぐだ。それより、学がねーのはテメェも一緒だろ、このアマ!」

2人が去ると、黒い日本車が通りを爆速してきた。

賞金稼ぎたちは一斉に弾丸を浴びせた。

「地獄へ送ってやれ‼」

車はヤシの木にぶつかり、横転した。

運転席のドアが開き、外に子供が出てきたが…

「白人じゃねぇ!現地人のガキか、チキショウ!」

的外れだった。


ホテルモスクワの動きは確実だった。

「各班、配置に着きました。」

「良し。そのまま私の合図を待て。もうこれ以上、お前たちを失いたくはない。」

「承知であります、大尉殿。」


双子は路地を逃げ回っていた。

「案の定だったね、姉様。5000パーツで身代わりを作れれば安いものさ。」

「でも、少し可愛そうだったかしら。孤児だって言ってたわ。」

「仕方ないよ、姉様。殺すか殺されるかしかないんだ。この世界はそれだけだもの。」

「そうよね、兄様。仕方ないわ。」

「そうさ、姉様。だから、殺そう…もっと殺そう…」


バラライカは合図を送った。

「ガキどもを追い込め。」

「チャルクワンストリート裏の分隊が標的の位置を捕捉、牽制攻撃を加えました。」

「良し。」

バラライカは地図にマーキングして双子がどこにいるのかを正確に割り出していた。

「その後の移動方向を。」

「予定通り東へ。まもなくラドガポイントの前に出ます。」

「順調にコースを移動してるな。」

「第3分隊は一撃を加えた後、ラドガポイントを離れリヴィンスクへ移動中…」

「ハミポンストリートにも一個分隊を派遣し、水門を一箇所に絞れ。各分隊に適宜交代をとらせろ。主任務は敵の誘導だ。」

そのとき、違う方向から銃声が聞こえた。

「どの分隊か?」

「あの方向には展開が完了していません。ハンターの可能性が。」

「邪魔者は排除せよ。」

双子の前には1人の女が立ちはだかっていた。

「おーっと、動くんじゃねぇよ、クソガキども。こんな晩に彷徨いてると、碌な目に遇わねぇぜぇ。特に町中総出で狩に興じている夜にはな。クソ礼拝もきちんとしておくもんだ。」

すると、グレーテルがその女に近づいた。

「ねぇねぇねぇ、私たちの首にはいくらかかってるの?」

「5万ドルだ。動くな!」

「へー、いい額ねぇ。ここでやり合ってもいいけど、私たちまだやることがあるの。で、ここにヴェロッキオのところから持ってきたお金があるのね。10万で見なかったことにしない?」

「ふざけんじゃねぇよ。ガキの使いじゃねぇんだよ。」

「じゃあ、15万…どう?」

グレーテルはドル札を地面にばら撒いていた。

「うわぁ……どうするよ、レヴィ⁈」

「パニクってんじゃねーよ、エダ!5万も15万もそいつらの命も、アタイらが全部いただきだ!そいつらぶっ殺したら地面の札も忘れずに拾えよ、エダ!」

「交渉決裂ね!」

軍曹が分隊の応答を掴んだ。

「ラグーン商会の中国人、暴力協会のシスターも一緒です。」

「必要ならば踏み潰せ。」

そこにホテルモスクワの分隊が到着し、双子に発砲した。

「こちら、フォドルフスキ。ポイントグスコフにて接敵。」

「あんの野郎!」

「よしな、エダ!ホテルモスクワだ。」

この状況下においても双子は笑っていた。

「出てきたよ、姉様。ロシア人だ。」

「えぇ。」

「ねぇ、姉様。ロシア人たちを混乱させるんだ。適当に散らせばあいつら本陣に戻るはずさ。」

「そうね、兄様。別れてロシア人たちを追い詰めましょう…うふふ…」

ヘンゼルは更に細い路地へ、そしてグレーテルはマンホールの中に入った。


「交戦中標的をロスト…」

「しかし、こちらの姿をはっきりと晒した。敵は喰らい付いたものとして行動を続けよ。」

「各班、配置を続行。」

「ラブチェク班、フォドルフスキ班は第2の所定の位置に完結。最終地点へ移動する。」

夜が明けるまで2時間を切った。

その日は流星群の日であり、バラライカたちの頭上を通過して行った。

そのとき、無線が入った。

「撤退するフォドルフスキの後方に標的2を発見。」

「標的の数を確認せよ、至急。」

バラライカははっとして無線に応じた。

「ポランスキよりオクチャブリアジ、捕捉したのは標的2のみ。繰り返す、標的2のみ。」

「こちらエイジン兵長。こちらからも1体しか確認できない。」

「標的2は確実にフォドルフスキの尻尾を咥え込んでいます。」

「このまま所定へと引きずり込みます。」

「標的2のみか。」

「そうです。」

「まぁいい。1匹だけでも追い込め。気取られるなよ。奴らは勘が鋭いぞ。奴の側が優勢だと信じ込ませろ。その上で次の段階へ向かえ。混乱を“装え”…」

「大丈夫です。まもなく公園です。予定通りそこで一撃を加えます。」

「撹乱し、血を上らせることに全力を注げ。血が上れば勘も鈍る。そこが展開点だ。」

「了解。」

無線の応答を終えると、バラライカは腕時計を見た。

「軍曹、時刻だ。最終班の指揮を執れ。」

「はい。では大尉、お気をつけて。」

「あぁ。貴様も充分気をつけろ。」

軍曹が去った後、バラライカは5本目の葉巻に火をつけた。

「さて、このくだらん乱痴気騒ぎをお終いにしようじゃないか。」



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