連載小説
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前編
なぜ探検家なのか?

そう聞かれたら、私は必ずこう答えると決めていた。
未知の事に出会える浪漫に勝るものはないのだ、と。

☆☆



「ここがかの有名な『帰らずの森』ね」

雪のように白いポケモン──ロコンが、目の前に広がる鬱蒼とした森を見上げて呟いた。
ここは名前通り、訪れた者は二度と帰還しない森だ。有名な探検家が何匹も訪れたが、未だ誰一人として帰ってきていない。空から調べられる鳥ポケモンですら帰ってこないので、研究団もどうやってこの森を調査すべきか頭を悩ませている。
だから、中に何があるのか、どうして誰も帰ってこないのか、まだわかっていないのだ。

「だからこそ、ロマンがあるというものなのだけど」
「やれやれ。ハクの探究心にはつくづく呆れさせられるぜ」

そのロコンの傍らに経つ、両膝に貝殻を身につけている二足歩行のポケモン──フタチマルが肩を竦めた。

「なによ、その言い方」
「だって、帰らずの森だぞ? 俺たちだって先人たちみたいに帰ってこなくなりましたーってなる可能性の方が格段に高いんだぜ? どうしてそんなキラキラ目を輝かせられるかねー」
「だって、探検家だもの。もしかしたら中に誰も知らないお宝があるかもしれないのよ? 私達が最初の発見者になるかもしれないなんて、ワクワクが止まらないわ!」
「お気楽なこった……それに一週間前にも伝説の探検隊がこの森に入ってるんだから、そちらさんが先に見つける可能性だってあるじゃないか」
「もう、夢のないこと言うわね。彼らだってまだ見つけられないで森の中をさまよってるかもしれないからまだチャンスはあるじゃない。だいたいなんであんた着いてきたのよ? 同じ探検団に所属してるからって、別に頼んでもないんだから来なくても良かったのよ?」
「そ、それは……絶対弱っちいお前一匹じゃ帰ってこれないし? 屈強なこの俺が力貸してやってもいいかなーって思ったんだよ! 」
「別に弱っちくはないわよ!私の方が探検隊ランクは上だってこと、お忘れじゃないかしら?」
「ぐ……さ、さあ、早く入ろうぜ! 日が明るいうちに進めるところまで進まないと!夜の森は危険だからな!」

言葉を詰まらせると、フタチマルは早口で捲し立てるかのように言って森へずんずんと入っていった。

「ちょっと、一人で行かないでよ!」

ロコンもフワフワとした純白の六本の尾を揺らしながら彼に続いた。


☆☆

森を歩いて数時間。

「……何もないな」
「……そうね」

二匹の言うことはもっともだった。森は鬱屈とした薄暗さに覆われ、歩くだけで気が滅入る。その上、日光を遮断している大きな木々、足元に積もった湿っている落ち葉以外には何も無い。ポケモンの気配すらない。

「あと数時間で日が暮れる……進めるところまで進んだら、今日の所は休もうぜ」
「……そうするしかないわね」

と、今日の拠点について物思いを巡らせていると、

「お、おい! あれを見ろ!」

二足歩行の分、視界が開けているフタチマルが突然叫び、走った。

「何かあったの?!」

驚き半分、期待半分で声を弾ませながらロコンも彼の後を追いかけた。

「これは……」

薄暗かった森の中で、二匹が立ち止まった辺りだけ数時間ぶりに見る日光が差していた。何故なら、その辺り一面の木が無惨にも倒れていたからである。それも、自然に倒れたものではない。そう断言できるのは、その倒木が半ばから折られたようなものだったり、部分部分が炭と化していたり、まるでサイコロステーキのようにブロック状にカットされたものもあったからだった。

「……多分だけど、昔探検家がここで何かと争ったのね」
「そうだな……この傷は【フロンティア】のフシギダネのものじゃないか?」

フロンティア。それは、つい一週間前この森で消息を絶った探検隊だ。フシギダネ、ヒトカゲ、ミズガメの三匹で構成されたこのチームは誰一人として未進化にも関わらず、探検隊ランクはなんとマスターランク。『無進化だからといって弱い訳では無い』ということを世のポケモンに知らしめた、偉大な探検隊だったし、自身も未進化であるロコンの尊敬する探検隊でもあった。

「確かに……! このカッティングされた木はフシギダネのはっぱカッターによるものかもしれないわ……! だとしたら、こっちの燃えたような木はヒトカゲの炎技を受けたのかしら。こっちの折られた木はゼニガメの体当たりだとしたら辻褄が合うし」
「みんな【フロンティア】のメンバーだし、おかしくはないかもな。まあ、まだ確証は出来ないけど。だけど、これは危険だな……彼らと戦った何者かがこの辺りにいたってことは、俺たちも気を引き締めて探索しなきゃならないってことだし」
「確かに……フロンティアは無事かしら」
「……無事に決まってるだろ。だって、伝説ポケモンよりも強いって噂のフロンティアだぜ? 返り討ちにしているに決まってるさ」
「それもそうね」

そう自分達に言い聞かすように話していると、二匹の背後でガサガサと音がした。

「誰だ!?」

フタチマルもロコンも流石は探検家、瞬時に後ろを振り返りつつロコンは身を屈め、フタチマルは膝のホタチに手をかけそれぞれ臨戦態勢をとる。


「これはこれは、この森の主たる私に大したご挨拶じゃあないか」

果たしてそこにいたポケモンは、胴体には黄色い唐草模様、そして襟のような突起を生やした、若草色の蛇の如きポケモンだった。

「誰かと聞く前にまずは自分から名乗った方がいいとは思うけれど……いいさ、私は寛大だからね、私から名乗るとするよ。私はジャローダのジェノヴァ。この森の主さ」
「ジェノヴァ……」

フタチマルが絞り出すように声を出した。それしか言えなかったのは、ジャローダの鋭い眼光が先程からこちらを射抜いていたからだ。おまけに首をもたげた姿はあまりにも大きく、アーボックに睨まれたニョロトノのように体が金縛りにあったかのように動けない。
だが、

「私はロコンのハクで、こっちはフタチマルのマルです。私達は探検隊で、ここにはお宝がないか探しに来ました」

ロコンはジャローダの放つプレッシャーの中、凛とした声で名乗った。
実を言うと、ロコンは内心飛び跳ねたいほど興奮していた。何故なら、彼女の好奇心は並外れていたからだ。
見たい!聞きたい!知りたい!
常に彼女の頭はあらゆることへの興味でいっぱいだった。そんな好奇心の塊だったからこそ探検家になった彼女にとって、知らないポケモンに出会えた喜びは例えようもない喜びであり、その喜びの前ではジャローダの威圧感などなんのそのであった。
ジャローダは瞳を輝かせるロコンを見て口角を緩めた。

「成程、そっちのお嬢さんは中々怖いもの知らずだね。私の眼光の前でスラスラと喋れる子はあんまりいないんだ。誇ってもいいんだよ? 」
「それはどうも、女王様に褒めていただけるなんて光栄だわ。ところで、ここにお宝ってありますか?」
「私がこの森の中で知らないことはない。だから、もちろん君たちが探しているというお宝についても教えてあげられるけど、ただで教えるわけにはいかないな」
「……! どうしたら教えてくれますか?!」
「ふふ、流石は探検家、食い付きがいいじゃあないか 」

ジャローダは口から二股に分かれた舌をチロチロと出して笑った。

「一つ、バトルをしないかい? 勿論、二対一で構わない。君たちが勝ったら、お宝について教えてあげよう」
「……! もしかして、フロンティアともそれで戦ったんですか?」
「フロンティア……?ああ、あのゼニガメとフシギダネとヒトカゲの探検隊がそう名乗っていたね。そう、彼らも私と戦った。まあ、そのことについてもこのバトルが終わったら教えてあげるよ」
「わかりました、戦いましょう! ね、マル!」
「ぐ……ほんとにやるのか……? あいつ、絶対強いぜ?」
「それでも、よ! 勝ったらお宝について何かわかるかもしれないのよ? もしかして、フロンティアもお宝の貴重さを鑑定するために一週間ここに滞在してるのかもしれないわ。ほら、現地で色々鑑定してから持ち帰る探検家って多いじゃない」
「それもそうだが……」
「勝ったらフロンティアに合流できるかもしれないし! 憧れの、あのチームフロンティアに! ああ、ここに来て本当に良かった!」

興奮しているロコンを見て、フタチマルはやれやれとため息を吐いた。ロコンがこうなったらもう止められないのは、幼なじみとして充分すぎるほど知っていた。

「わかったよ。この勝負受けよう」
「やった! ありがとうマル! 頑張ろうね!」

微笑むロコン。それを見て、フタチマルの頬が自然と赤くなるのをジャローダは見逃さなかった。

「ふふ、好きな子のためにも頑張らないとね?」
「う、うるさい! 行くぞ、ハク!」
「……? う、うん!」

きょとんとしたロコンの顔をちらりと見て、彼女が鈍感で本当に良かったと思いながら、恋心をばらした憎き相手に向かってフタチマルは飛びかかった。跳躍する間に膝の二つのホタチを両手に持ち、ジャローダに切りかかる。

マルは、普通のフタチマルよりも遥かに過酷な修行をしてきた。毎日素振りを何時間も何時間もやり、休日は遠い村に住む凄腕剣士のダイケンキの元に稽古をつけてもらうために足繁く通った。そうして彼は、波のフタチマルじゃ太刀打ち出来ないほどの強さを手に入れた。全てはハクを守るため。昔っから好奇心旺盛だった彼女が、いつか危険な目に合うのではないかと心配した結果、自身が守ればいいのだ、そんな結論に至った彼は自らを鍛えることに余念がなかった。そして、今、その成果を振るうことが出来て内心ホッとしていた。
先程までは射すくめられていた分、ボコボコにしてやる。彼の頭は闘争心でいっぱいであった。

「シェルブレード!」

フタチマルの繰り出す二刀流のシェルブレードは目にも止まらぬ速さでジャローダの頭へ迫る。だが、

「……なっ!?」

フタチマルが驚きの声を発したのも無理はない。ジャローダの両首の辺りから伸びてきた二本の緑色の蔓のようなものが彼のシェルブレードを的確に捉え、跳ね返したのだ。
何度ホタチで切りかかろうとしても同じだ、信じられないほど速い蔓の鞭で鍔迫り合いに持ち込まれてしまう。

「ふむ、なかなか強いな。だけど、私が本気で戦うまでじゃあない」
「ぐ……!」

こんな鍔迫り合いの最中に、喋れるのか。こちらは話す余裕すらないと言うのに。

フタチマルの額を冷や汗が伝った。想像以上に、強い。一旦体勢を立て直す為にフタチマルは地面に着地し、宙返りしつつ飛びずさる。が、

「逃がすと思ったかい?」

ジャローダが蛇体をくねらせ追い縋る。と、

「それは私のセリフ」

そんな可愛らしい声が聞こえた、そうジャローダが知覚した時には、彼女の大きな体躯に向かって冷気のエネルギーが放たれ、直撃した。

「−五十度のれいとうビーム。蔓の鞭を使いこなしていたあたり、あんたは草タイプでしょ? 効果は抜群、そうよね?」

冷気の残り香を吐きつつロコンが言う。

「成程、面白くなってきた!」

彼女の体はれいとうビームをもろに受け、彼女の体をも覆うほど大きい氷の結晶の中に閉じ込められていた。氷の結晶から出ているのは鎌首と尾だけであり、動きが完全に封じられた。にも関わらず、彼女は心底楽しそうに笑った。

「いいねいいねいいねぇ! もっと楽しませてくれよ!」
「動きは封じた、畳みかけるぞハク!」
「言われなくとも!」

フタチマルはホタチを両手に携え再度飛びかかり、ロコンは口を開いてエネルギーを集めて第二のれいとうビームを放つ準備をした。
二匹とも、もうこの攻撃で終止符を打つつもりだ。はたから見たら満身創痍の蛇なのだ、動き出したら手が付けられない強敵である以上、今ケリをつけたいと思うのは当たり前だ。だが、

「決着をつけるのを急ぎすぎだ」

ジャローダが身をくねらせようと全身に力を入れると、その強靭な力で氷にメリメリとヒビが入り、砕け、四散し、彼女は自由の身となった。そして、肉薄してくるフタチマルの脳天に蔓の鞭を一撃。果たして、攻撃されるとは思っていなかったフタチマルはなんのガードもせずに蔓の鞭を受け地面に叩きつけられた。彼が叩きつけられたことによりものすごい衝撃とともに落下地点一帯が陥没する。
ジャローダは続いて飛来したれいとうビームを紙一重で身をくねらせ横に移動し避ける。コンマ一秒遅れてジャローダがいた場所に氷の塔が出来た。だが、ロコンのれいとうビームは数秒間放ち続けることが出来る代物だ。避けたと思ったあとも後ろからビームが追いかけ、ジャローダが通った道を凍らせていく。

「遠距離で攻撃してくるポケモンには、接近戦が一番、だよね」

ジャローダはそう呟くと、ロコンを中心として円を描くかのように回り続けた。


数秒間という時間はバトル中の体感では数分にも等しい。ロコンには、この数秒間でれいとうビームをジャローダに当てられる確信があった。だが、じわじわと焦りが出てくる。ジャローダの動きが早すぎるのだ。彼女の背後を遅れて凍らせるので精一杯。しかも、だんだんとジャローダが描く円が小さくなってきている。つまり、いずれジャローダの蔓の鞭のリーチ内に入ってしまう。
頼みの綱のフタチマルは……ダメだ。横目で確認したが、彼はすっかり伸びてしまっていた。先程の落下の衝撃も凄まじかったし、水タイプのフタチマルがあの凄まじい速さの蔓の鞭を頭に食らったのだ、既に戦闘不能だろう。
どうすればいい。どうすれば、勝てる。思いを巡らせたところでれいとうビームを出すエネルギーが尽き、彼女の口からは白い吐息しか出なくなる。

「よし、今度はこちらの番だね」

攻防が一転した、そう確信したジャローダが逃げることをやめてロコンに肉薄する。距離がだいぶ近くなっていたこともあって、コンマ一秒の半分の半分にも満たない速さだった。

だが、まだロコンのターンは終わってはいなかった。

ロコンの口からこれまでのれいとうビームとは比較にならないほどの冷気が吐き出され、周囲を白い霧で覆う。
異変を感じたのか眉間に皺を寄せたジャローダだが、もう遅い。


本来は数十秒意識を集中させないと放てず、そのモーションの遅さ故に相手に滅多に当てられない技。だが、辺りがれいとうビームで十二分に冷却された空気で満たされており、その上ロコンの集中力がこの上なく研ぎ澄まされていたことがこの技を一瞬で放つことを可能にした。

「絶対零度」
「……っ!?」

果たして放たれた極限の冷気はゴウゴウと音を立ててジャローダに迫る。白い冷気が辺りを覆いつくし、ジャローダに当てられたかどうか、ロコンは見れなかった。

「ぐあっ……!」

だが、立ち込める霧の中、苦しそうなジャローダの呻き声が聞こえた。

「勝った……のかしら?」

ハアハア、と肩で息を吐き、霧の中を睨みながらロコンは呟く。だが、内心は勝利を確信していた。自ら突っ込んでいった時に絶対零度を放たれたのだ、余程の反射神経がない限り直撃は免れないだろう。
もしかしたら、マルを絶対零度の余波に巻き込んでいるかもしれない。後で謝ろう。
緊張が緩み、仲間への心配をするほどの余裕が出てきたロコンが、霧の中から突如として躍り出てきたジャローダから逃れられるはずがなかった。

「きゃっ!?」
「ふふ、死ぬかと思ったよ」

ロコンの身体に巻き付き、締め付けるジャローダ。彼女の身体の表面は大部分が氷で覆われ、枯れ草のような色になっていた。何故倒れていないのかというと、

「頑張って避けたのさ。私はポケモンの中では速い方だからね。尾は避けきれなかったし、余波で全身が凍りかけたりで散々ではあるけれど」

骨が軋むほど強い力で締め付けられているロコンには、ジャローダの尾を見るほどの余裕はなかった。だが、現にジャローダの尾はそれはそれは悲惨な様子だった。尾の先端は壊死して黒黒と染まり、茂っていた葉は跡形もなく消し飛んでいた。だが、その程度で済んだこと自体、神がかった反射神経がないとできない芸当であった。格上の相手にこの大技が当たるわけがなかったのだ。

「まあ、光合成すれば治るだろうからまだ良かったよ。さて、君はいつ降参するのかな」

とぐろを巻き、締め付けられているロコンを見下ろすジャローダ。もはや、はたから見たら捕食者とその獲物にしか見えない光景だった。

「ぎっ……! うぅぅ…!」

骨がメリメリと音を立てているのが聞こえる。全身が痛い。頭がクラクラとする。れいとうビームを出そうとはするが、それ以上に全身の痛みで上手く技に集中出来ない。もう、ロコンには勝利のビジョンが見えなかった。

「こう……さん……する……わ……!」

宝物よりも、憧れの探検隊に会えることよりも、今はこの苦しみが早く終わることの方が彼女にとっては大事だった。

「そうかそうか。それはよかった」

だが、ジャローダの締めつけは終わらない。むしろ、締め付ける力が心無し強くなった気もする。

「や……やめてよ……!もう……っ!」
「もう勝負は終わったって? うん、確かに勝負は終わったとも」

ジャローダは苦しむロコンを愉しそうに見下ろし、舌をチロチロと出し入れした。

「そうそう、勝負で君たちが勝ったら財宝についての情報を教えると言っていたが、負けた場合のことは話していなかったね」

ジャローダはニヤリ、という擬音語がピッタリの笑顔を見せた。

「君たちを食う、というのはどうだい? もっとも君たちに拒否権はないけれどね」
20/01/01 02:20更新 / サーや
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■作者メッセージ
戦闘シーンは分かりづらい上にかなりこじつけです(ロコンの絶対零度のくだりなど)
とにかく、なんやかんやジャローダが勝ったのだと理解していただけると嬉しいです…
後編の丸呑み編は近々更新する予定なので、そちらも読んでいただけると嬉しいです!

追伸…12月7日に誤字修正しました。

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