とある双子
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- 狂気 -

「通り魔たちは相手を知っててやってるのかな?だとしたら、狂気は沙汰だ…」

ロックは疑問を打ち明けた。

「稀にいるのさ…この世界には…薬種と呼ばれる連中でな。暗黒街でもお荷物になるクズの中のアウトサイダーだ。大概は分別なく暴れて、とっととくたばってくれるが、たまに超能力並みの勘や冴えすぎるお頭のせいで、変に生き残る奴もいる。連中はイカれたこと無しには生きていけない。そして、最悪を撒き散らすんだ。」

「ああいう手合いに共通してんのはなぁ、色んなもんを憎んでるってことだ…ただ憎むんじゃなく、色んなもんを憎み過ぎて自分が何を憎んでるのかもわからなくなっちまってる…そして最後は何もかも巻き添いにして吹っ飛ばすのさ。まあ、本当のところは当の本人にしかわからねーよ。」

その時、ロックたちのところに一本の電話が入った。

眼鏡をかけたアメリカ人のベニーがそれに出た。

「ロック、指名だよ。今“話題”のお方から…」

「はい、代わりました…ブナセアラ…ですかぁ…ニュアンスはイタリア語みたいなんですが…」

「貴方なら職業柄わかるんじゃないかと思って…失礼、“前の”だったわね…」

「ん〜ブナセアラ……」

「ソアラマイマーレというフレーズは?なんでもいいわ。思いついたこと、地名、名前……」

「…欧州課の誰かがそんなことを教えてくれたような気がします……でも、はっきりと出てこないんですよ…」

ロックが目を横へやったとき、レヴィの読んでいる新聞の今日の番組にヴァンパイアの映画があるのに気づいた。

「…あっ!吸血鬼‼」

「何だと⁉どう言うことだ、ロック?」

「その言葉、吸血鬼に関係が…」

「ありがとう、ロック。礼はまたいつか…」

バラライカは電話を切って葉巻を咥えると、火をつけてフーっと煙を吐き、軍曹の方を向いた。

「ロックが答えを出した。ガキどもの出身はドラキュラの故郷だ。」

「ルーマニア人…ああ、ルーマニア語か!カブールにいた分隊が確かにそんな言葉を使っておりました。そうだった…」

「全く、年を食うと思い出すだけでも一苦労になるな。気にするな、軍曹。私もそうだ……そうだ軍曹、ラチャダストリートのローアンは、裏で虐待関係のビデオを扱っていたな…」

「ええ、そうでありますが…」

バラライカは早速ローアンの店へ赴きビデオを押収した。


数日後、バラライカは張と会い、情報を交換した。

「人払いは済ませた、張?」

「ああ、デリケートな会合だ。これがデートなら歓迎するがね…」

「血の匂いをさせながらまちねと洒落込む訳にもいかないでしょ…張、連中の正体が割れたわ。」

「なるほど。興味のわく話だ。どうやって割り出した?」

「最終的には、ローアンの取り扱い商品から。」

「おピンク屋のローアンか?奴を君のオフィスへ呼んだのか…死ぬほど怯えただろうに…」

「パンツの中にデカい物を生み出さんばかりに。」

「不幸な男だ…」

「彼に求めた内容はルーマニア人の双子が出ているビデオだ。彼に用意できたのは250本…」

「それもまた不幸な…」

「その250本にまる一晩と半日費やし、ビンゴを引いたのよ……“ヘンゼルとグレーテル”ビデオの中でガキどもはそう呼ばれていた。ルーマニアの政変以降、維持出来なくなった施設から闇へ売られた多くのガキども…死んだ独裁者の落とし子たち…」

「クソ野郎どもにおもちゃにされ、果てはブタの餌になる…本来ならそうなる運命のガキどもが何故逃れた?」

「馬鹿どもが始末の片棒を担がせたのよ…自分たちと大して違わぬ“生け贄たち”の後始末を…ガキどもは生き延びる為に変態どもの喜ぶ殺し方を必死になって覚え、夜を1つずつ越えていき、そしていつしか全てを受け入れた…青空の世界を去り暗黒の闇へと堕ちて行った。」

「酷い話だなぁ。俺たちの世界にこそふさわしい。俺は時々、どデカイ糞の上を歩いているような気分になるよ。俺には道徳やら正義やらは肌に合わん。その手の言葉はケツから出るやつに驚くほど似てやがる。そのガキどもに同情するのは、ミサイル売りながら平和を唱えるど阿呆とどっこいだ。」

「知ってることを話したまでよ。私達に正義は要らないわ。要るのは利益と信頼だけ……ローアンから先は簡単だったわ。」

バラライカは張に書類を手渡した。

張はその書類にめを通すとサングラスを外した。

「なるほど。コイツが卸元か…身内から死人が出てりゃ、立派なアリバイだ。」

「所詮は見せ物。躾がなってるわけないわ。周りに迷惑をかけては糞をこしらえる…お宅の組員は煽りを食らってやられたのよ。」

「理由はどうあれ、ケジメはつけてもらうさ。」

「そろそろ町の色を変える頃合いだと思わない、張?」

「連絡会の意味が無くなるな…もう一度戦争を呼び込むのか?」

「調律された紛争と言って欲しいわね。理由も動機も成り立つわ。」

「正しい戦争というわけかい?綺麗事を言うタイプじゃないと思っていたが。」

「口実として正しいかどうかよ。正義かどうかは犬に食わせれば?……組むか忘れるか、後は貴方次第。」

「まあな。本国に申し奉るでもないか…この世に神保するのは合力のみ、ただ一つ。」

「久しぶりにガンマン姿が見られるかしら。期待してるわ、ベイブ。」

「鉄火場に立つのは嫌いじゃないが、今の俺には立場がある。面倒なものさ。あと、俺のことをベイブと呼ぶな。嫌いなんだそのあだ名は…」

バラライカは張を見送ると軍曹に電話した。

「軍曹、張は提案に合意した。香港三合会とは限刻より共闘する。同士戦友達に伝言せよ。1905より即時待機、驚速217、ケース5。復唱せよ。」

「1905より即時待機、装填外部支配戦域におけるスナッチミッション。」

「Да .混乱が予想される。町は賞金稼ぎどもでお祭り騒ぎだ。」

「賑やかなのは良いことです、大尉殿。特に銃弾の響きはこの上ない。」

「そうだなぁ、軍曹。今の我々が持てる唯一の戦争だ。大事に使おう。」

バラライカは車の後部座席に座るとその場を後にした。
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