連載小説
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シーン19
「うっひゃあ! 今度も凄い勢いだ!」
 一度に出し切れる量でなかったらしい。遠足から帰って最初にすることになったのは立ち小便だった。立っていたのは――高さ数十メートルの断崖絶壁。見晴らしの良い木陰でゴロゴロして過ごすべく、果樹園のある裏山の頂上にやって来たのだった。
「えぇっ、嘘でしょ!? これってもしかして……虹!?」
 いきなり頓狂な声を上げるベロベルト。目の錯覚などではなかった。体の中心から崖下に向かって伸びる黄金色のアーチの脇にもう一本、七色のアーチが浮かび上がったのである。
「あははっ! オシッコで架けちゃったよ! もぉ、オイラったら汚いなぁ!」
 面白おかしくて仕方ない光景だった。二本の曲線を見比べた彼は大笑いする。
 その後も丸太小屋の住民から絞り取った水分を大地へと還元していくベロベルト。放尿するほどに輝きを増していく七色の光に願わずにいられなかったのは、昨晩に食した六匹の冥福だった。
「良かったじゃないの、君達! こんなにも綺麗な虹になれたんだ! もし次に生まれてくることがあったら、きっと真っ当な道を歩むんだよ! でなきゃ、またオイラにゴックンチョされてウンチにされちゃうだけだからね! ……まぁ、それはそれで、オイラとしては満腹できるから嬉しいんだけど! あははっ!」
 祈っているのか貶しているのか分からない言葉の数々だったが、食べた獲物は笑って見送ってやるのが彼なりの流儀だった。段々と勢いを失っていく黄金色の噴流に一抹のノスタルジーを覚えた彼は、最後にもう一度だけ、断崖絶壁に架かった七色のアーチを目に焼き付ける。
「じゃあね! バイバイ!」
 塞がった両手の代わりにベロを振って別れの挨拶を述べるベロベルト。そこで回れ右をして絶壁に背を向けた彼は、ポタポタと黄色い雫が滴り落ちるのみとなった体の中心を元あった場所に仕舞いにかかる。
「んっ……あれっ? なんで……?」
 どういう訳か上手く収まってくれなかった。体の中心をベロで弄った彼の口から戸惑いの声が漏れる。
「んくっ……! この……!」
 意地になって力任せに押し込もうとしたのが運の尽きだった。彼は最悪の事態に見舞われる。
「げっ、しまった! 大きくなって……!」
 充血する感覚に慌ててベロを離すも時すでに遅し。最高に精が付く食べ物を六匹も堪能した翌日であることも相まって、瞬く間にトロピウスの首の房となって天を衝いてしまうのだった。
「おほぉっ! こんな立派になっちゃうんだ……!」
 両頬を赤く染めて鼻息を荒くするも長続きしなかった。間もなくして彼は底なしの脱力感に襲われる。
「あーあ、格好悪いったらありゃしないよ。何をやっているんだい、オイラは……」
 意味もなく立派にしてしまった体の中心を目の前に意気消沈してしまうベロベルト。こうなってしまった以上、ゆっくり風に当てて冷ます他に方法はなかった。彼は果樹園で一番の大木を目指して歩き始める。もっと楽な移動方法があったが、この状況でその手段を取るだけの勇気はなかった。
「ふひぃっ……ちょっと歩いただけでこれだよ……。何が何でも両手だけは離さないようにしないと……!」
 さもないと体の中心をボキリと根元からへし折られるという、昨晩に食べたグレイシアも真っ青の運命が待ち受けるのである。ボリューミーな腹周りの贅肉を両腕いっぱいに抱えた彼は、慎重な足取りで前へ前へと進んでいく。お目当ての木の幹に背中を預け、尻尾を股の間に通して前へ出し、腰を下ろして両足を伸ばせば一安心。ベロベロと額と首周りの汗を舐め取った彼は深い溜め息を吐く。
「はぁ……だらしない体になっちゃったなぁ……」
 当分は食べ物の心配をしなくて済むようになったのが嬉しいだけに、複雑な気持ちだった。改めて自分自身を見つめ直した彼の顔に苦笑いが浮かぶ。
 だらしないと言えば――。体の中心へと視線を移すベロベルト。何度見ても抜群のインパクトだった。彼は一瞬で赤面してしまう。
「こんなの皆に見られたら一発で笑い者にされちゃうよ。なんだけど……」
 彼の口から乾いた笑いが漏れる。
「もうオイラとあの子しか生き残っていないんだっけ……。だったら見られる心配をするのも変な話だよね。ましてや恥ずかしいなんて思う必要もないワケで……」
 そこで彼は大きく息を吸い込む。
「別に気にすることないんだ。どうせ誰もいないんだからね……」
「いるわよ、ここに!」
「へっ……?」
 反射的に上を向くベロベルト。視界いっぱいに飛び込んできたのは――上下逆さまになったジャローダの顔だった。
「……うわっ、うわわわっ!? きっ、君! いつからそこに!?」
 とっさに股間を両手で隠すも手遅れだった。ジャローダの顔いっぱいに意地悪な笑みが浮かぶ。
「うふふっ、あなたが来るずっと前からよ! ここから全て見させてもらったわ!」
「みっ、見させてもらったって……ちょっと! いるなら一声かけてよ!」
 大いに憤慨するベロベルト。一方の彼女はナンセンスだと言わんばかりに二股の舌を垂らしてみせる。
「あらあら、そんなの気付かない方が悪いのよ。確か前に会った時もそうだったわね。私に為す術もなく頭をしゃぶられちゃったのは……どこの誰だったかしら?」
「うっ……」
 正論中の正論だった。食うか食われるかの世界で油断は許されないのである。彼は言葉に窮してしまう。
 宙ぶらりんの状態でベロベルトの身体を舐めるように見ていくジャローダ。目に留まったのが体の中心であることは言うまでもなかった。彼女は嘲笑を禁じ得ない。
「あーら、昼間からお盛んなこと! 可愛い子でもゲットしたのかしら?」
 からかい半分で聞いているのは明らかだった。彼はぶすっとした表情を浮かべる。
「うるさいなぁ、まだだよ。……そう言う君はどうなのさ? 最後に君の浮いた話を聞いたの、もう随分と前になるんだけど?」
 言われっぱなしは趣味でなかった。彼は即座に反撃する。
「ふんっ、まだ探し中よ。好みの相手が見つからないんだから仕方ないでしょ?」
 若干キレ気味に返すジャローダ。今度は彼が笑う番だった。
「ほら、またそれだよ。君は理想が高すぎるのさ。そうこうしている間に年だけ取っちゃうのがオチだと思うけどね?」
「ちっ、言ってくれるじゃないの。絶対に裏切ってやるんだから!」
 何とか互角の勝負に持ち込めたが、あまり続けたくない話題だった。股間から両手を離した彼は落ち着き払った口調で質問する。
「……で、こんな所まで何の用だい? 何か目的があって来たんだよね?」
「えぇ、もちろん!」
 ジャローダは首を縦に振る。
「退屈で仕方ないから、お喋りでもと思ってね。お付き合い頂けるかしら?」
「なるほどね。それならお安い御用さ。でも、その前に……」
「その前に……?」
 彼はジャローダの尻尾が巻き付いた木の枝を指差してみせる。
「いつまでもそうしていないで降りて来てくれる? せめて楽な姿勢で話そうよ」
「あら、これでも楽は楽なのよ? ……まぁいいわ! それならお言葉に甘えさせてもらおうかしら!」
 これ以上に楽な姿勢は一つしかなかった。ニッと口角を吊り上げた彼女は、枝に巻き付けた尻尾を解いて重力に身を任せる。落下した先は――ベロベルトの巨大な腹の真上だった。
「うわっ!? ちょ、ちょっと!? 何をして……!?」
 数秒後には完全に巻き付かれてしまっていた。肩の上で鎌首をもたげたジャローダはリラックスした表情を覗かせる。
「何って……あなたの言ったとおりにしたまでじゃないの。文句ある?」
「別にないけど……せめて一声かけてよ。びっくりするじゃないか」
 ジャローダの胴体に両腕を乗っけた彼は不服そうにしてみせる。
「あら、ごめんあそばせ!」
 葉っぱの手を口に当てた彼女は満面の笑顔でペコリと頭を下げるのだった。
 肌が触れ合って改めて分かったのは彼女の復調だった。血色の良くなった顔、太さと弾力を取り戻した体、瑞々しく生い茂る尻尾の葉っぱ。心強い証拠の数々に彼は思わず顔を綻ばせる。
「すっかり元通りだね。先週に会った時とは大違いだよ!」
「ふふっ! 元通りどころか前より随分と太っちゃったわ! あなたとレナードさんのせいでね! お陰で良い迷惑よ!」
 ギュッと抱き締めた相手の胴体に頬を寄せるベロベルト。ジャローダはさも嬉しそうに返すのだった。
 太ったといえば――今度は彼女が変化を感じ取る番だった。ジャローダは相手の腹部に深々とめり込んだ自身の胴体に視線を落とす。
「独り言にもあったけど……そう言うあなたは本当にだらしない体になっちゃったわね。これじゃブヨブヨの水風船じゃないの!」
 気心の知れた友達に大笑いされるのは中々に堪えた。恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にした彼はそっぽを向いてしまう。
「シャワーズ、ニンフィア、ブースター、サンダース、グレイシア、リーフィア……だったかしら? よくもまあ、一度にこれだけ食べられたものね。こんな体になるのも合点がいくってものだわ」
「えっ!? どっ、どこでその話を……!?」
 一言も喋らなかった筈なのにどうして――。ベロベルトの背筋がピンと伸びる。
「ふーん? 今のでもう一つ分かったわ。あなた……私には最後まで黙っておくつもりだったでしょ? 誘ってくれるのを楽しみに待っていたのに! よくも独り占めしてくれたわね……!」
 数センチの距離まで顔を近づけてくるジャローダ。絶体絶命のピンチだった。ババロアのように柔らかなベロベルトの全身の贅肉がプルプルと小刻みに震え始める。
「えっと、あの、それは……その……!」
 食われる――。体格的にありえない筈なのに本能が叫んでいた。氷のように冷たい深紅の瞳、チロチロと出入りを繰り返す二股に裂けた舌、下顎から覗く真っ白い二本の牙。鋭い眼光で射すくめられた彼は、用を足し終えたばかりにもかかわらず、小便を漏らしそうになってしまう。
 ……ガバァッ! と、大口を開けて襲いかかってくるかと思った次の瞬間だった。今までの表情が嘘だったかのような笑みがジャローダの顔いっぱいに湛えられる。
「……ふふっ、冗談よ! 終わったことを今更どうこう言うつもりはないわ! レナードさんからも六匹はあなたに譲るよう言われていたしね!」
「なっ……なぁんだ、レナードさんから聞いていたのか。驚いて損したよ……」
 しかしながら、秘密にしたのが事実である以上は謝らねばならなかった。ホッと大きく息を吐いた彼は重い口を開く。
「でも……ごめん。君にも声を掛けるべきだったんだ。もう二度と独り占めはしないと誓うよ……」
 食べ切れなくなったリーフィアをベロ袋に詰め込んだ時の記憶を思い起こすベロベルト。彼は深く頭を垂れるのだった。
「ふふっ! まぁ、気にしなさんな! 本当に分けて欲しかったら昨日の出発前のあなたをとっ捕まえているわよ! ボコボコにしてでもね!」
「うーん、それもそうかぁ!」
 ……下手をすれば無事で済まなかったのだ。笑顔で返した彼は背筋に冷たいものを感じるのだった。
「それに……私は私でレナードさんから美味しそうな子を紹介してもらっていたしね。そもそもあなたの獲物に手を出す必要がなかったの」
「なるほどね、そうだったんだ」
 やっぱりレナードさんは情報通だ。彼は改めて感心させられる。
「ちなみに……どんな子を紹介してもらったんだい?」
 食べ物に関することは何でも知っておきたかった。彼は即座に質問する。
「見張りよ。例の丸太小屋のね」
「えっ、そんなのがいたの!?」
 開いた口が塞がらなかった。ジャローダは笑顔で首を縦に振る。
「えぇ、いたわ! 可愛らしいフタチマル君が一匹だけね! あなたが無事に丸太小屋まで辿り着けたのは私のお陰なんだから感謝なさいよ?」
 まぁ、ぶっちゃけ、いてもいなくても変わらない子だったけどね! ザル警備もいいところだったわ! 彼女は心の中で付け加える。
「フタチマルかぁ。確か……修行熱心なラッコのポケモンだっけ? 割と筋肉質な感じで美味しそうだよね、あの子! ……で、この太い胴体で締め落としてゴックンチョしちゃったんだ?」
「もちろん! お尻から一口で呑み込んであげたわ! まだ若い子だったから締め落とすのは勘弁してあげたけどね!」
 驚きの発言だった。ベロベルトはキョトンとした顔を向ける。
「へっ? それ以外の方法なんてあったっけ?」
「ふふっ、馬鹿にしてくれるじゃないの! 舐め回して痺れさせるのは……あなただけの得意技じゃなくってよ?」
 ダラリと口から垂らした二股の舌を妖しく揺らしてみせるジャローダ。こうして見ると、意外と肉厚で幅もあることがよく分かる。
「あぁ、思い出した! ハブネークだ! 君、確か彼に教えてもらっていたんだっけ?」
 ベロベルトの言葉に彼女は嬉しそうにしてみせる。
「そう! せっかく教わったんだから使わないとね! ……ツルで両手足を縛って宙ぶらりんにして、全身がベトベトになるまで舐め回してあげたの! 今まで半信半疑だったけど……本当に痺れて動けなくなっちゃうのね、あれ! びっくりだったわ!」
 テンション高めに喋り倒すジャローダ。彼女のトークは更に続く。
「あんな楽しい技ったらないわ! 特に技をかけている時の相手の表情よ! あの情けなさそうな、恥ずかしそうな、気持ち悪そうな、くすぐったそうな……あぁ、何て表現したら良いのかしら!? まぁ、とにかくあの表情よ! 見ているだけで最高に興奮しちゃった! 面白かったわぁ!」
 葉っぱの手を両頬に当てて、うっとりとした表情を覗かせるジャローダ。心の底から同意できる内容だった。腕組みをした彼は笑顔で頷いて応じる。
「あー、わかるなぁ、それ! ゾクゾクしちゃうよね、あの表情! ついでに言うと、オイラは臭そうな表情も大好きだなぁ。それ見たさに顔なんか思い切り舐め回しちゃったりして! ……体の汚れを舐め取ったりもしているから、そこそこ臭いらしいんだよね、オイラのベロ。そんなに臭うかなぁ?」
 伸ばしたベロを鼻先まで持って行ってクンクンやり始めるベロベルト。片手で口元を覆って仰け反ったジャローダは呆れた表情を覗かせる。
「もーっ、汚いわね! 食べられる子の身にもなりなさいよ! あなたの商売道具でしょうが! それくらい綺麗にしておいたらどうなの!?」
「ははっ、そりゃ無理だよ。こんな暑い時期は特にね。どれだけ舐め取っても汗をかいちゃうんだ。いちいち綺麗にしていたら間に合わないよ! そもそも歯がないから口の中を清潔にする習慣もないことだし! あははっ!」
 大きく口を開けて笑うベロベルト。いよいよジャローダは嫌悪感を露わにする。
「あなたに今まで食べられてきた子達に同情するわ。臭かったでしょうに!」
 顔を背けて嫌味たっぷりに言うも効果なしだった。彼は底抜けに明るい顔で笑い続ける。
「別に良いじゃない! 臭くたって! 臭いで怯んだ隙に頭から爪先までベロリンチョさ! あははっ!」
 麻痺と怯みの最強コンボだった。彼は誇らしげに胸を張ってみせる。
 ……この話題はもう止めにしましょう。口の中がしょっぱくなる症状に見舞われた彼女は次のトピックを探し始める。
「あれ? それはそうと……食べた子は? どこも膨らんでいないよね、君のお腹?」
 ジャローダの胴体をベタベタと触り始めたベロベルトは訝しげに尋ねる。
 よりにもよって下ネタを振りやがって……! 思わずカチンときてしまうも、彼女は努めて普段通りの口調で返事をする。
「そりゃそうよ! さっき別れの儀式を済ませたばかりだもの! ……ほら、あそこ! 借りさせてもらったわ!」
 ジャローダは果樹園の一角に設けられた真新しい土饅頭を顎でしゃくってみせる。
「ははーん、なるほど。別れの儀式……ね」
 ジャローダと同じ方を向いたベロベルトは目を細くする。
「その通り! 臭い足になりたくなかったら踏みつけちゃダメよ?」
「ご丁寧にどうも! 気を付けさせてもらいます!」
 冗談めかして言うジャローダ。そんな彼女に彼は恭しく敬礼してみせるのだった。
「……ほんと、馬鹿な子よ。何が悲しくて違法伐採者の用心棒なんて引き受けたのかしらね? 修行して強くなりたいんだったら、他にいくらでも道はあったでしょうに!」
 じっと土饅頭を見つめた彼女は嘆くように呟く。
「あ……その話、君もレナードさんから聞いたんだ?」
 途端にジャローダは鋭い眼光を向けてくる。
「聞いたに決まっているでしょ!? 腸が煮えくり返るかと思ったわ! それもようやく少しスッキリしたところよ! こいつをウンコに変え終わってね!」
 かなり頭に血を上らせているらしい。ジャローダは乱暴な言葉でまくし立てる。
「ま……まぁまぁ! 落ち着いて! それに君は女の子なんだから、もっと上品な言葉を選ばなくちゃ! たとえば……黄金とか!」
 そう言って両手のひらを胸の前で見せるポーズを取った彼であったが、ジャローダは鼻で笑うのみだった。彼女は更に怒号を飛ばし続ける。
「落ち着いてなんていられないわ! あなた……私達が置かれている状況を本当に理解しているの? これから私とあなたで永遠に森を守り抜いて行かなきゃならないのよ!? 今回はレナードさんの助けもあって撃退できたけど……次からも上手くやっていける保証なんてどこにあるワケ!? 二匹しかいないのよ!? この広い森の中でたった二匹……! どうやって立ち回っていけっていうのよ! ……あぁっ!」
 最後は涙声に変わっていった。ベロベルトの胸に顔を埋めたジャローダの両目から大粒の涙がボロボロと溢れ始める。
 退屈で仕方なかったんじゃない、不安で胸が押し潰されそうだったからオイラを訪ねて来たんだね。彼女の心中を察した彼は、腹周りの贅肉ごとジャローダの胴体を強く抱き締める。
「君の言うとおりだよ。保証はどこにもない。……でもね、希望はある。オイラには夢があるんだ」
 短くも力強い言葉だった。涙に濡れた顔を上向けたジャローダの瞳に光が戻る。
「ふふっ……そういえばそうだったわね! すっかり忘れかけていたわ! あなたが広げまくっていた大風呂敷……!」
 相手の目を見つめた彼は小さく首を縦に振る。
「そう、オイラ自慢の大風呂敷さ! その夢だけど……これから実現に向けて色々と具体的に取り組んで行きたく思っているんだ。その中で君の力が必要になることも出てくるかと思う。特に仲間集めの部分ではね」
 そこで一呼吸を置いた彼は話の核心に差し掛かる。
「改めてお願いするよ。オイラと一緒に……このブッ飛んだ夢を叶えてみないかい?」
 一笑に付して速攻で断ったのが昨日の出来事のようだった。彼女は葉っぱの手でベロベルトの拳を優しく包み込む。
「叶えてみるに決まっているじゃないの! このホラ吹き男! 途中で諦めたら承知しないんだからね!」
「やったぁ! ありがとう! 今日からよろしくね!」
 そのまま熱い抱擁を交わす二匹。直後に彼の目に映り込んできたのは、果樹園を覆い尽くさんばかりに生い茂った雑草と、不死身の暴君ことオーダイルに蹴り倒されて枯れ果てた果樹の姿だった。
 すべきことは目の前に積み上がっていた。ダラダラしたい気持ちをゴミ箱に投げ捨てた彼は思い切って口を開く。
「早速で悪いけど、今から草むしりと掃除をしようと思っているんだ。良かったら手伝ってもらえるかい?」
「もちろんよ! パパッとやって終わらせちゃいましょう!」
 二つ返事で快諾して地面に降り立つジャローダ。体の中心も落ち着きを取り戻した後だった。今度こそ元あった場所へ仕舞い終えた彼は、両足に力を込めて立ち上がる。
「よぉし、やるぞぉ!」
「えぇ! 亡くなった仲間達のためにも頑張りましょう!」
 涙を拭い取り、傍らのベロベルトに続いて掛け声を上げるジャローダ。脳裏に浮かんだのは、親友の一匹だったハブネークと共に過ごした日々の思い出だった。
 よく晴れた夏の空の下。二匹は大いなる夢への第一歩を踏み出すのだった。
20/05/13 03:33更新 / こまいぬ
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■作者メッセージ
GW中に書き進めた分を投稿します。
voreい話で捕食者どうし盛り上がってもらいました。

……ここまで読まれた方は既にお気付きかと思いますが、
割と際どい下ネタも自重せずブッ込んでいく方針に転換させて頂きました。
正直に言って、あれこれ自主規制して書けるような腕ではありません。
誠に恐縮ですが、ご理解いただきたく存じます。

今回もお読み頂きありがとうございました。

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