目 次
火の鳥のご馳走 - 肉の揺りかご
「うぅ…狭い…」
クルマユは狭く生暖かい、食道という名の肉の洞窟を進んでいた。
周りの肉壁は触るとヌルヌルとしており、滑りやすくなっている。
それに加えて食道全体がクルマユを奥へ奥へと送ろうとして動いているため、一度呑み込まれてしまった彼女は吐き出してもらうほかは逃げる手段はないだろう。
「このまま、私はどうなるのかなぁ…」
肉の壁に体を揉み込まれながら流されてゆく彼女の体は次第に降下していき、徐々に胃袋へと近づいていく。
ふと、前をみると胃袋への入り口が目の前にあり、ゆっくりと音を立てて開いていく。
ほんの一瞬の間ではあったが、クルマユにとっては相当長い時間のように感じられた。
完全に開ききってしまうとクルマユは優しく押し出され、すとん、と胃の底に着地した。
「胃の中ではゆっくりしていてね、すぐに咳も熱も収まるから…」
不意にルフシャの声が胃袋に響く、その言葉の通りに彼女の体調も良くなってきているようだ。
先ほどまでは発熱していて、火照っていた体も次第に平常体温にまで戻り、いがらっぽくて、咳ばかりが続いていたのが嘘のように咳は治まってしまった。
「あれ、何だか…楽になった…」
クルマユ自身も体調が好転したのを感じ、今にも雨が降りそうな雨雲のようにどんよりと沈んでいた気分も先ほどまでとは随分と変わって、晴れ晴れとした気分に心が躍りだしそうに嬉しくなる。
この胃袋の中では、どんなにつらい事や危険な目にも合わずに生きていける気がしたが、彼女はすぐにその気分を振り払う。
何時までもほかのポケモンにばかり頼っていてはいけないのだという気持ちが彼女にはあった。
クルマユは改めて胃袋を眺めてみる。
胃壁は絶えずグニグニと動いていて、ルフシャは生きているんだなという気がしてくる。
クルマユが今立っている場所は粘液だらけでとても歩けそうにない。
一歩足を踏み出してしまえばねとねととした粘液が足に絡みつくだろう。
胃の奥を見てみる、すると、腸につながっているのだろう、きっちりと閉まった肉のゲートがあった。
耳を澄ませてみると、脈打つ心臓の音が、胃の中に響くのが耳に聞こえてくる。
粘着質なネチャネチャという音も聞こえ、少し不気味である。
そのような胃の風景を何をするでもなく眺めていると、急に胃が揺れ動いた。
「キャッ!」
クルマユはバランスを崩してしまい、それを優しく包み込むかのように胃壁が動き、噴門まで送りだしてくれた。
その後は来たときと同じように食道は彼女を優しく包み、温かな温もりとともに口内まで送ってくれた。
クルマユにとっては長い時間体の中にいたようだったが、口内に差し込む光を見る限りでは、さほど時間はたっていないようであった。
ゆっくりとくちばしが開かれると、外の世界が一気に開け、彼女は目を細める。
気づいた時にはすでにルフシャの翼の上に寝転がっていて、ポカポカとした暖かい日の光に照らされて幸せな気分になった。
「ふふ、言ったでしょ?あなたの病気は必ず治すから…って」
クルマユは「え、そんなこと言ってましたっけ?」ととぼけてみたりして、元気な姿をルフシャに見せる。
ルフシャはその姿を満足そうに見つめて、微笑む。
二匹の笑顔はいつまでも絶えることはなかった。
クルマユちゃんの病気は、きちんと治してあげましたw
どうやら、ただの風邪だったようですねw[15/06/18 17:43 猫缶]
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