連載小説
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シーン15
「うっ、うーん……。何これ……とっても良い匂い……」
 左右の鼻孔をひくつかせるベロベルト。彼の意識を取り戻させたのは、どこからともなく漂って来た美味しそうな香りだった。
「んぁ……あれっ? オイラどうして仰向けになって……?」
 匂いのする方に体を向けようとして気付いたのは冷たい地面の感触だった。記憶の断片を繋ぎ合わせ始めるベロベルト。間もなくして彼は事の顛末を思い出す。
「そうだ、気持ち悪くなって失神しちゃったんだっけ……」
 一緒に倒れた彼女は? 手伝う予定だったレナードさんは? あれこれ気になり始めるも、まずは体を起こさねばならなかった。寝ぼけ眼を擦りながら大あくびするベロベルト。長座になって瞼を開いた先に広がっていたのは目を疑う光景だった。
「……へっ!? 嘘でしょ!? すっかり暗くなってる!」
 ポカンと口を開けて夜空を見上げるベロベルト。ほんの少し前まで空高くで輝いていた筈の太陽は月に取って代わられ、今や何もかも夜の帳に包まれてしまっていたのである。
「に……二匹は!? まさか置いてきぼりにされちゃったんじゃ……?」
 そう思うには十分すぎる時間が経っていた。彼は大慌てで立ち上がって周囲を見回し始める。
「ううっ……暗くてよく見えないや。と言うか……オイラこんな場所で倒れた記憶ないんだけど……?」
 薄暗い中で必死に目を見張るも、見えて来るのは鬱蒼と生い茂る木々ばかり。気を遣ったマフォクシーが日の当たらない森の中まで運び込んだのが真相だったが、そこまで想像力を働かせられるだけの余裕は残されていなかった。
「どっ、どうしよう……って、うん? これは……?」
 迷うばかりの彼の鼻孔を再び良い匂いがくすぐる。目覚める前に嗅ぐのとでは大違いだった。肉の焼ける香ばしい匂い。同時に発生源まで突き止めた彼の表情に安堵の色が浮かぶ。
「よし! こっちだ!」
 一目散に進み始めるベロベルト。雑草やら低木やらを大きな足で踏み潰し、邪魔な枝をベロで薙ぎ払い続けた先に見つけたのは――湖畔の一画で赤々と燃え盛る焚き火を囲むマフォクシーの姿だった。接近に気が付いた彼は驚いた様子で立ち上がる。
「……おぉ! 目を覚ましたか! 迎えに行く手間が省けたよ!」
「ごめんよ。爆睡しちゃっていたみたいで……」
 頭に手を当てるもマフォクシーは笑顔だった。
「なに、気にするな。お陰様でゆっくりさせて貰っていた所さ」
 褐色の液体が詰まったボトルを揺らしてみせるマフォクシー。既に半分近くを空けてしまった後だった。
「さぁ、座ってくれ! もう焼き上がる頃だ!」
「うわぁ……!」
 案内された先にあったのは夢のような光景だった。大きな葉っぱの上に背丈ほどの高さまで積み上げられた生肉。焚き火の周りで美味しそうな煙を上げる串刺しの細切れ肉。石を組んで作ったロースターの上でジュウジュウと音を立てる骨付き肉。絶景の数々にベロベルトは舌なめずりせずにいられない。
「レッ、レナードさん!? これ……全部オイラが食べちゃって良いの!?」
「勿論だ。お前さんが最後だからな」
 隣に腰掛けたマフォクシーは大きく首を縦に振ってみせる。最後と言われて思い出すのはジャローダの事だった。
「そうだ、あの子は? さっきから見ないんだけど……?」
「あすこだ。よく目を凝らしてみろ」
 キョロキョロし始めるベロベルト。マフォクシーは近くの木の上の一点を指差してみせる。
「あ……いた!」
 保護色で見つけるのは一苦労だった。探すこと数秒あまり、彼は胴体を一回りも二回りも膨らませたジャローダの姿を発見する。久し振りに満腹して気持ちも和らいだのだろう。全身を木の枝に巻き付け、既に安らかな寝息を立てている最中だった。
「良かった。どこに行ったのかと思ったよ」
 一安心するベロベルト。待ちに待った最初の一皿が差し出されたのは次の瞬間だった。
「ほら、出来たぞ! 焼き加減に不満があったら言ってくれ!」
「ひゃあ! こりゃ凄い!」
 驚きのあまりに皿を取り落としそうになるベロベルト。手渡されたのはグレイビーの滴る、こんがりと焼き上がった骨付き肉だった。
「少し待て、いまナイフとフォークを……」
「いっただっきまぁぁす!」
 言い掛けるも時すでに遅かった。舌で一巻きにして口の中へ引きずり込んでしまうベロベルト。頭ほどの大きさを誇るそれも彼には小さ過ぎるくらいだった。
 用意する必要はなかったな。伸ばし掛けた手を引っ込めたマフォクシーは心の中で付け加える。
「……んんっ! んんんっ!」
 恍惚の表情を浮かべるベロベルト。先程まで筋肉の塊の一部だったとは思えない程の柔らかさとジューシーさだった。舌の上で転がせば瞬く間に繊維が解け、中に凝縮された肉汁が口の中いっぱいに溢れ出る。たっぷり堪能してゴクンと呑み下す頃には、歯の一本もない口の中でドロドロに溶けてしまうのだった。
「おっ、おいしぃぃぃ!」
 その一言に尽きた。ベロベルトは両頬に手を当てる。
「レナードさん、これって本当にアイツの肉かい!? 何か特別な事でもした!?」
「いいや、切れ込みを入れて、味付けに塩をまぶしたくらいだ。気になる事でも?」
 ロースターの肉をひっくり返しながら受け答えするマフォクシー。やり取りを繰り返すこと三回あまり。詳しい内容を聞き出した彼は一つの結論に至る。
「……あぁ、そういう意味か。そいつは調理の方法云々じゃない。お前さんのここの話だ」
 マフォクシーはベロリと垂らした舌を指差してみせる。
「……えっ? ここ?」
 つられて同様の格好をするベロベルト。マフォクシーは小さく首を縦に振るう。
「お前さんの唾液だが劇薬も同然でな。それこそ何でも溶かしてしまうんだ。食べ物なんかイチコロみたいで、何を口にしても綿菓子かチョコレートを食べる感覚しかしないと言う奴までいるくらいさ」
 まさに言われた通りの感覚だった。ベロベルトは呆然とした表情を浮かべる。
「その様子だと今まで気付いていなかったようだな? ……いいか、お前さん? 老婆心ながら忠告しておくが、捕食する相手以外は絶対に舐めてはならんぞ? 一舐めするだけで足腰が立たなくなる程に痺れさせてしまいかねんのだからな?」
 マフォクシーは怖い顔で指を立ててみせる。
「う……うん、分かった。気を付けるよ!」
 それは大変だ。いつもの癖が出ないよう注意しないと。彼は真剣な表情で何度も首を縦に振るのだった。
「さぁ、話は終わりだ! 肉が焦げちまう! どんどん食って行け!」
「えへへっ、それじゃあ、遠慮なく……!」
 一転、すっかり焼き上がった肉の塊を二段、三段と上機嫌で重ねて行くマフォクシー。山盛りの御馳走を目の前にしたベロベルトの口から涎が溢れ出る。
 至福の時間の幕開けだった。食べては焼き、焼いては食べ続けること数時間あまり。食べて食べまくり続けた彼の元に晩餐のフィナーレを彩る一皿が運ばれる。
「ほれ、これで終わりだ! 心して食えよ!」
「ありゃ? まだあったんだ。……って、げぇっ!?」
 既に満腹近く。ウトウトし掛けていた彼の眠気を吹き飛ばすには十分すぎるインパクトだった。ベロベルトは危うく後ろに倒れ掛けてしまう。
 変わり果てた姿となった今でも一目で分かった。三連のトサカ、上下の顎から生える巨大な牙の数々。最後の一皿に饗されたのはオーダイルの首から上の丸焼きだった。
「あぁ、びっくりした! 心臓が止まるかと思ったよ!」
「ははっ、だから言ったろう!? 心して食えと!」
 こりゃ一本取られたな。ベロベルトは天を仰ぐ。
「……うーん、こうして見ると大きいなぁ! おっ、流石はレナードさん! ちゃんとリンゴも咥えさせてある!」
 持ち上げて観察し始めるベロベルト。驚いたのも最初だけ。不思議なもので食べ物に化けてしまった今となってはグロテスクなどとは微塵も思わないのだった。
「それじゃあ……心して頂いちゃおうか」
 惜しむ名残などなかった。早々に観察を終えたベロベルトは丸焼きの頭を舌でグルグル巻きにしてしまう。
「じゃあね、バイバイ!」
 口の中で舐め溶かすか、丸呑みにして胃袋の底に沈めるか。悩んだ末に選ばれたのは後者だった。別れの挨拶を述べ終えると同時に大口の中へ引きずり込み、そして――
 ゴッキュン!
 喉奥に通されて食道を下った先に落っこちたのは消化液の大海原。ボコボコと激しく泡立ちながら沈んで行き、あっという間に溶け尽くしてしまうのだった。
 狐、蛇、そして山椒魚。ここに貪欲な肉食獣達は、世間を恐怖のどん底に陥れた凶悪犯を余す所なく胃袋に収めてしまう。因果応報。搾取の限りを尽くした彼を待ち受けたのは、その全てを搾り取られるという運命だった。
「……グェェェェッップ! あぁ、美味しかった! ごちそうさまでした!」
 倍以上に膨れ上がったお腹を抱えながら長大なゲップを漏らすベロベルト。食べカスだらけの口周りを脂塗れの舌で拭って余計に汚してしまうのはご愛嬌だった。
「その台詞はまだ早いぞ! そら、デザートだ!」
 そう言って差し出されたのは白い塊が無数に突き刺さった一本の木の枝だった。
「やったぁ! マシュマロだ!」
 歓喜するベロベルト。受け取ると同時に彼は焚き火で炙り始める。
「おっと、前みたく台無しにするんじゃないぞ!」
「ははっ、大丈夫だよ! 同じ失敗はしないさ!」
 焦がして炭にした経験があっただけに慣れた手つきだった。炎の上で器用に枝を回した彼は全てのマシュマロをキツネ色に焼き上げる。
「うん! 上手に焼けました!」
 夜空に高々と掲げて悦に入るベロベルト。後は食べるだけ。ベロンと一舐めにすれば濃厚な甘さが舌の上で糸を引く。
「ふわぁっ……! ベロが溶けちゃうぅ……!」
 これぞ焚き火の醍醐味。およそ野生では楽しめない魔性の味にベロベルトは頭をクラクラさせるのだった。
 これにて今度こそ晩餐は終了。彼は満面の笑みをマフォクシーに向ける。
「レナードさん、ありがとう! ごちそうさまでした!」
「あぁ、おそまつさま! 腹いっぱい食べてもらえて嬉しい限りだよ!」
 食後の挨拶を交わし合えば長い夜が幕を開けた。マフォクシーは飲み掛けのボトルを、ベロベルトは食事中に何度も継ぎ足して貰った木の実ジュースのカップを傾けつつ、二匹は闇夜に揺れる炎を静かに見つめ始める。
 話の口火を切ったのはマフォクシーだった。景気付けに中身を呷った彼は重い口を開く。
「事情は全て彼女から聞いた。掛ける言葉も見つからないよ。でも……これだけは言わせてくれ」
 そこで言葉を切った彼はベロベルトの背中に手を回し、そして、
「よく生き延びてくれた! お前さん達を失わずに済んで嬉しいよ!」
 肩に顔を埋めて力の限り抱き締める。何もかもを優しく包み込んでしまう暖かい毛むくじゃらの炎の体、そこはかとなく獣臭い毛皮の匂い。ベロベルトの涙腺が一気に緩む。
「う……ううっ……!」
 あぁ、泣かないって誰かさんと約束したんだけどな! 短い両腕で抱き締め返した彼の両頬を熱いものが伝わり落ち始める。
「うん……! 生き延びたよ! 頑張って生き延びたんだ! 辛かった、ひもじかった……! 狩り場なんか滅茶苦茶にされて……持っている食べ物まで奪われて……!」
 その先は言葉にならなかった。マフォクシーも同様に声を震わせる。
「あぁ、頑張ったとも! そんな状況にありながら進化したのが何よりの証拠だ! 世界一の逞しさだよ!」
 生きていて本当に良かった! やがて抱擁を解いた二匹は涙の残る顔で笑い合うのだった。
 再び優雅な時間を過ごし始めるベロベルト。何気なくカップを口に運んだ彼は先程のマフォクシーの言葉を思い出す。
 振り返ってみれば進化した理由が分からないままだった。毎日を必死に生きて来たのは事実だが、どの頑張りが進化に繋がったのだろうか? アイツの邪魔さえなければ頑張るまでもなく進化できたのだろうか? とにもかくにも、そのような考えが浮かぶ程度には進化に関する知識がないのが現状だった。
「ねぇ、レナードさん。ちょっと聞きたいんだけど」
「……うん? 何だ?」
 聞かぬは一生の何とやら。彼は横で読書を始めていた相手に質問する。
「さっきの話だけど……オイラって食べ物が豊富にある環境じゃないと進化するのが難しいの? 初めて耳にしたよ」
 今更にも程があった。パタリと本を閉じて傍らに置いたマフォクシーは怪訝そうに相手の顔を見つめる。
「いや、難しいも何もだなぁ……お前さんが進化しようと思えば、転がるのに適した丸々と肥え太った体を作り上げる他ないだろう? そのためには食って食いまくるしかない訳で、それを奴の支配下にありながら達成したから流石だって話になるんじゃないか」
 額に手を当てて嘆息するマフォクシー。説明するのも馬鹿らしい内容だった。
「……あぁっ! そういう事だったのか!」
 が、ベロベルトにとっては大違いだった。彼は呆然とした表情で夜空の彼方を見つめる。
 オイラが進化する条件――それは転がり移動を覚えることだったのだ。たった今に聞いた内容、そして進化の直前に起こった出来事を重ね合わせた彼は確信する。
「ちょ、ちょっと待て!? お前さん……まさか何も知らないで進化したワケではなかろうな!?」
 案の定の反応を見せるマフォクシー。思わず立ち上がった彼は震える手でベロベルトを指差す。
「うん、そのまさかさ。実は訳も分からないまま進化しちゃったんだ。ついでに言うと……進化したのも今日だったりして!」
 手を頭の後ろに回したベロベルトは舌を出してみせる。
「はっ……はぁぁぁぁああああ!?」
 マフォクシーの絶叫が夜空に轟いたのは次の瞬間だった。
「……あぁ、駄目だよ! そんな大きな声を出しちゃ! 彼女が起きちゃうじゃないか!」
「バカモン! 出さずにいられるか!」
 口を塞ぎに来た両腕を払い除けて無声音で一喝するマフォクシー。幸いにもジャローダはピクリと体を震わせたのみで、目を覚ますことはなかった。
「食うにも困る状況だったのみならず、あまつさえ偶然だっただと? で、それが今日で、奴を倒したのも今日だっただと? ……ふん、そんな出来過ぎた話があるものか。お前さん、さては色々と盛っているだろう?」
「うーん、そう言われてもなぁ……」
 鼻で笑われて疑いの目を向けられるも、何もかも実際に起こった出来事だけに返す言葉がなかった。ベロベルトは弱り果ててしまう。
 それ以上に困ってしまったのはマフォクシーだった。脱力した様子でベロベルトの傍らに腰を下ろした彼は両手で頭を抱え込む。
「うーむ……かと言って嘘を吐いているようにも見えんから困ったものだ。事実は小説より奇なり、とはよく言ったものだな……」
 ぶつくさ言い始めるマフォクシー。やがて彼は最後の手段に訴える事を心に決める。
「……えぇい! こうなったら奥の手だ!」
 左腕の暗赤色の体毛の中から引っ張り出されたのは一本の木の枝だった。取り出すなり先端を左手で擦って着火させた彼は、枝の炎をベロベルトの眼前まで持って行く。
「えぇっと、レナードさん? 奥の手って……何するつもり?」
「あぁ、これでお前さんの近況を見せて貰おうと思ってな。疑って悪いが協力してくれ。どうにも腑に落ちないんだ」
 そうだ、すっかり忘れていた。レナードさんには枝の炎の向こう側に未来の出来事を見通す能力が備わっているのだった。寄り目になった彼は以前に聞いた話を思い出す。
「うん? 未来……?」
 そこまで思考を巡らせたべロベルトは不審な点に気が付く。
「あれ、ちょっと待って? 近況って事はオイラの過去だよね? 未来が見えたって仕方ないんじゃ……?」
 首を傾げるベロベルト。マフォクシーが待っていたのはその一言だった。
「ふふっ、よくぞ気付いてくれた! ちゃんと覚えていてくれたようで嬉しいよ!」
 顔をほころばせるマフォクシー。枝の炎に手をかざした彼はこう続ける。
「……やはり俺も狐だ。どうも歳を重ねる毎に妖力が増すようでな。最近になって気が付いたんだが、未来に限らず、過去の出来事まで見通せるようになっていたのさ」
「えっ、そりゃ凄い! どれくらい前までなら見えるの!?」
 マフォクシーは視線を宙に泳がせる。
「そうだな……今のところは三日前までが限界ってところか」
 十分だった。ベロベルトは首を大きく縦に振るう。
「うん、バッチリだ! ……さぁ、そういう事なら早く! オイラのここに聞いてみるのが一番さ!」
 彼は自身の胸を指し示してみせる。
「よし、では見せて貰おう!」
 陽炎の向こう側に相手を見つめて意識を集中させるマフォクシー。超能力で一段と大きくなった炎の内側にベロベルトが見聞きした光景が次々に映し出され始める。
 さながら相手の記憶が頭の中に流れ込んで来るかのような感覚だった。瞬く間に何もかも追体験し終えた彼は満足した様子で枝の炎を吹き消す。
「……こいつは疑って悪かった! 二度と嘘吐き呼ばわりしないと心に誓うよ!」
「あぁ、良かった! ちゃんと伝わったんだ!」
 ホッと息を吐いて一安心するベロベルト。枝を腕の体毛に戻したマフォクシーの顔に皮肉めいた笑みが浮かぶ。
「ハネムーンの夫婦を二匹まとめて大便にするとは粋な事をしたもんだ。罪深い奴め!」
「それは言わないでよ。オイラだって知っててやったワケじゃないんだからさぁ……」
 脇腹を肘で小突かれたベロベルトは決まりの悪そうな顔をする。
「でも……その二匹には心の底から感謝しているよ。空腹を癒やしてくれたのはもちろん、オイラを進化に導く力にまでなってくれたんだからね。森に平和を取り戻すことが出来たのは彼らのお陰でもあるんだ」
 改めて思い返せば感慨深いものがあった。彼はしみじみとした口調で胸の内を吐露する。
「良い心掛けだ。きっと彼らも浮かばれるだろう!」
 言葉の端々から伝わって来たのは獲物に対する敬意だった。マフォクシーは感心した様子で頷いてみせる。食された二匹の心中など完全に無視した一言だったが、彼らが気に留めることは遂になかった。
 重要な情報はもう一つあった。マフォクシーは話題を転換する。
「……それはそうと、だ。まさか奴の魔の手から近所の子供達まで救い出してくれていたとは。お前さんには本当に頭が上がらないよ」
「えっ、近所だって? もしかして二匹のこと知っているの?」
 目をパチクリさせた彼にマフォクシーは胸の前で手を広げてみせる。
「知っているも何も。はす向かいの施設で暮らしている子供達さ。炊き出しで料理を振る舞いに行く度に会うから顔はよく知っているよ。……ここまで聞いていれば察しは付くだろうが、不運な生い立ちを背負った子達でな。真っ白いロコンに関して言えば、野生での暮らしに耐えかねて街へ移り住んで来た連中の一匹だったんだ」
「ちょっと待って。一匹って……そんな子が他にもいるってこと?」
 マフォクシーの顔に落ち込んだ表情が浮かぶ。
「……あぁ、残念ながら大勢いる。少し前までは考えられなかったんだがなぁ」
 ボトルを口に運びつつ深い溜息を漏らすマフォクシー。かなり酔いが回って来ているらしい。独特の芳香がベロベルトの鼻を突く。
「そんな、どうして……」
 数もさることながら、野生で暮らす一匹として嘆かわしく思わずにはいられなかった。ベロベルトは項垂れてしまう。
「色々あるらしいが最大の理由は自然災害だ。ここ最近どこもかしこも荒天続きでな。住処を失って生活が成り立たなくなってしまう奴らが後を絶たないのさ」
「それで助けを求めて街まで逃げて来るんだね?」
「そうだ。少なくとも身の安全は保障されるからな。誰だって命は惜しいさ」
 焚き火の世話をしながら淡々と返すマフォクシー。真っ赤になった枝を素手で掴んでも涼しい顔だった。
「あーあ、みんな甘っちょろいなぁ。オイラの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい気分だよ」
 腕組みをしたベロベルトは渋い表情を浮かべる。
「……ふぅん? そうか、分かった。これからは仮にお前さんが目の前でくたばり掛けていたとしても、何もせず野垂れ死ぬままにしてやろう。親友を見捨てるのは心苦しいが、お前さんの意思だ。尊重せねばなるまい?」
「えっ……それは流石にちょっと……」
 注がれたのは冷たい視線だった。思わぬ形で痛い所を突かれた彼は返答に窮してしまう。
「ほれ見ろ、結局そうなるだろう? ……たった今お前さんが言い掛けた事が全てだ。彼らを咎める資格なんて誰にもないのさ」
 頭の後ろに手を回したマフォクシーは諭すように言うのだった。
 そうだ、その通りだ。こう言うオイラだって森を捨てて逃げ出したいと思ったのは一度や二度の話ではないのである。進化した上にアイツまで倒して自惚れている節があったのかも知れない。冷静に過去を振り返った彼は心の中で反省するのだった。
「ねぇ、レナードさん。話の続きだけど……その子達って今どんな感じなの? みんな幸せに過ごせているのかい?」
 万一があった時のためにも知っておく必要があった。ベロベルトは質問する。
「そうだ……と言いたい所だが、言えないのが現状だ。食べ物と寝床の確保が一段落して、今は街での生活に必要な知識を伝授している所なんだが……一朝一夕で身に付くような話でもないし、教えられる奴にも限りがある。そうなると順番待ちになるワケだが、その間に何かする事があるかと言われれば何もない。あるとすれば、ただ起きて、食べて、寝るだけ。何をするでもない日々が続いてしまっているんだ」
 彼は浮かない表情でボトルの中身を口に含む。
「あれ、ちょっと待って? それって一周回って幸せな毎日なんじゃ……?」
「おっと、こいつはしまった。お前さんの場合は逆効果だったか」
 怠惰の権化にとっては魅力的な日常だった。不謹慎と知りながらもベロベルトは羨望の念を禁じ得ない。マフォクシーの顔に苦笑いが浮かぶ。
「……ただ、一つ分かって欲しいのは、それでストレスを溜め込んでしまう連中が少なくないという事だ。習慣の違いも合わさって、些細な行き違いから揉め事を起こしてしまうケースが後を絶たなくてな。対応に苦慮しているんだ」
「うーん、上手く行かないものなんだね……」
「あぁ、歯痒い話ばかりさ。何しろ数が数だ。とてもじゃないが手が回らんよ」
 受け入れる側にも限界があった。彼は苛立った様子で打ち明ける。
「ゆくゆくは街の一員として自立した生活を送れるようになって欲しい所だが、この調子だと相当な時間になるだろう。それまで誰の負担で養う事になるかと言えば街の住民だ。軋轢が深まる中で不満を抱く住民も増えている。入って来られないよう街を壁で囲ってしまえと言い出す連中まで現れる始末さ」
 そう口にして真っ先に思い浮かぶのは、街の有力者の一匹であるデカグースの顔だった。土地転がしで莫大な富を築き上げた彼であったが、その土地の多くを避難民の居住地として当局に買収されてしまったのが気に食わなかったらしい。全くの無関心だった筈が一夜にして反対派の急先鋒に立ち、支援者を声高に非難するようになったのだった。そんな彼の系譜を辿ると、野生で食い詰めて街へ転がり込んで来た祖先に遡ることができるのは皮肉と言う他なかった。
「はっきり言って彼らを取り巻く環境は厳しい。俺達が万歳するのが先か、彼らが社会に馴染むのが先か……こればかりは占う気が起こらないよ」
 傍らに積んであった枝の一本を手に取って目の前に掲げるマフォクシー。言い終えるなり焚き火の中へと放り込む。
 苦難から逃げ出しても別の苦難が待ち受けるだけ。ベロベルトが思い知らされたのは厳しい現実だった。
「この辺にしておこう。辛気臭い話で済まなかった。……ほれ、そんな景気の悪い顔をしている暇があったら飲め」
 ぐっと体を寄せた彼は木の実ジュースの詰まったボトルを傾ける。無性に喉が乾いてならなかった。注ぎ終えると同時にカップへ手を伸ばしたベロベルトは一口で飲み干してしまう。
「ごちそうさま。それと詳しい解説をありがとう。よく分かったよ。……そっか、険しい道のりなんだね。こうしちゃいられない、オイラも頑張らないと!」
 星空を見上げて決意を新たにするベロベルト。横で見ていたマフォクシーは呆れ笑いを浮かべずにいられない。
「おいおい、そりゃ俺の台詞だ。お前さんは何も余計な心配をしないで伸び伸びと暮らしていれば良いのさ。それこそ野生に暮らす者達の本来あるべき姿なのだからな」
 真に理想的な解決方法は元の生活を取り戻してもらうこと。二足の草鞋を履く傍ら最前線に立ち続けて来た彼が行き着いた唯一の結論だった。
「あ……うん。まぁ、そりゃそうなんだろうけど、そういう意味で言ったんじゃなくってね」
 そういえばレナードさんには話していなかったっけ。彼は気恥ずかしそうに続ける。
「オイラには……夢があるんだ」
 マフォクシーの大きな耳がピクリと揺れる。
「夢……? そいつは初耳だ。良かったら聞かせてくれないか?」
 望むところだった。はにかみながらも大きく頷いた彼は意気揚々と語り始める。
「オイラだけど……住んでいる洞窟の裏山に果樹園を作っているんだ。もう随分と前の話になるけど、冬の蓄えに困って苦しんだ経験があってさ。その反省を込めて実のなる木の種を色々と植えては育てているんだ」
 ここまでは果樹園で茶褐色の大蛇となった昨晩の獲物に語った通りだった。彼は一呼吸置いて次なる言葉をひねり出す。
「その果樹園を広げて行きたい。野を越え、山を越え、谷を越えて……いつかは森を実のなる木で埋め尽くすんだ。食べ物を求めてさ迷い歩くことも、空腹で倒れることもない。誰もがお腹いっぱい食べられて幸せに過ごせる世界を作り上げるんだ!」
 気付いた頃には腰を上げて拳を掲げていた。過酷な野生の環境で生き延びて来た彼が望む世界――それは誰もが満腹して心安らかに暮らせる理想郷だった。
「レナードさんの話を聞いていたら色々と想像が膨らんだよ。その逃げて来た子達だけど、オイラの夢が軌道に乗り始めたら森に移って来れば良いのさ。その頃にはオイラ一匹じゃ世話し切れない程の広さになっているだろうからね。一緒に汗を流して、美味しいご飯を食べて、見渡す限りの大自然の中で暮らすんだ。慣れない街で肩身の狭い思いをしながら生活するより楽しいに決まっているよ。街の住民だって迷惑しなくて済む。良いことだらけさ!」
 反応は上々だった。彼の提案は口笛と拍手で迎えられる。
「素晴らしい! いやはや、その一言に尽きるよ! 恐らくは考えられる中で最善の解決策だ! 何よりお前さんにとって最高の住まいになるだろう!」
 その理由は遠く離れた南国の島に生息するベロリンガ達にあった。そこら中に生い茂る実のなる木に舌を伸ばしては飽き足りるまで食べ、浜辺の木陰で青い海と白い砂浜に抱かれて昼寝する。訪問者があれば食べ切れない程の木の実で歓待し、友好の印に寄って集って頭から爪先まで舐め尽くす。冬の寒さに凍える心配もない常夏の島で、無尽蔵の食べ物と多くの仲間に囲まれながら争い一つなく平和に暮らしているのだった。
「面白い計画じゃないか! そういう事なら何でも言ってくれ! できる限り応援させてもらうよ!」
 立ち上がってベロベルトの両手をとるマフォクシー。絶賛の声に気を良くした彼は手を握ったまま小躍りを始める。
「やったぁ、レナードさんが付いてくれた! ありがとう! 次に会う時までに色々と頭を働かせておくよ!」
 さぁ、ここからが本番だ。ベストを尽くさない者に頼み事をする資格などないのである。最優先で取り組むべき課題を考え始めるベロベルト。現実に立ち返って気付かされるのは目の前を遮る高い壁の存在だった。
「うっ……」
 表情を曇らせるベロベルト。さながら空気が抜けたようだった。みるみるうちに元気を失って行った彼は崩れ落ちるように腰を下ろす。
「ははっ、どうしたんだ。溜め息なんか吐いたりして。そんなんじゃ夢が逃げてしまうぞ?」
 両手を腰に当てるマフォクシー。言葉の最後で首を傾げてみせる。
「いや、秋の収穫までどうやって食い繋ごうかと思ってさ。食べ物を探しに行くしかないワケだけど……こんな体になっちゃったんだ。今まで通り食べてたんじゃ腹ペコで倒れるだけだよ。彼女は光合成できるから大丈夫だけど、オイラは食べるしかないからねぇ……」
 視線を宙に泳がせるベロベルト。先程に見上げたのと同じ夜空が遠くに見えた。
「なるほど、そういうことか。まさか約束した直後に手助けする機会が訪れるとは夢にも思わなんだ!」
「え……何か良い方法でも知っているの、レナードさん?」
 したり顔で隣に座り込むマフォクシー。ベロベルトの視線が釘付けになる。
「あぁ、知っているとも。熱く夢を語ってくれた礼だ。お前さんに美味しい話を教えてやろう!」
 頷くと同時に左腕から木の枝を取り出すも、今度は占いが目的ではなかった。手にした枝で地面に曲がりくねった線を次々に描いて行くマフォクシー。何を描いているかは横で見守る彼が誰よりもよく知っていた。
「……いま俺達がいるのがここで、湖がこれ。で、さっきの話にあった裏山がこれだ。お前さんに教えたいのはこの場所。見ての通り最後は道なき道を進むことになる。歩くには遠いが、お前さんの転がり移動なら半日も掛からないだろう」
 一つずつ木の枝で指し示して説明するマフォクシー。バツ印が付けられたのは、足を踏み入れた経験のない山間の沢の一点だった。
「えっと、場所は分かったけど……ここに何があるんだい?」
 ベロベルトは地図を見つめながら質問する。
「この森で商売に勤しむ一家の屋敷があるんだ。腹を満たすには打って付けだろう?」
「へ……?」
 けろりとした表情で言ってのけるマフォクシー。喜びと興奮より先に生じたのは動揺だった。彼は思わず顔を上げる。
 商売に勤しんでいるということは彼と同じく野生の個体でないのだろう。それを餌扱いとは仲間意識の欠片もないのだろうか? ベロベルトは疑問を抱かずにいられない。
「ちょ……ちょっと待って? 教えてくれて嬉しいのは山々なんだけど……いくら何でもノリが軽すぎやしないかい? 本当に行って食べちゃっていいの?」
「一向に構わん。まとめて大便に変えて肥溜めにブチ込んでしまうがいいさ」
 普段より高い声で尋ねるベロベルト。返って来たのは身も蓋もない一言だった。
「えぇ……」
 何もそこまで言わなくても。親でも殺されたのだろうか? ベロベルトの全身から脂汗がにじみ出る。
「えぇっと、ボロクソ過ぎて引いちゃうんだけど……何かあったの? 尋常じゃない恨み方だね?」
 そうでなければ良識を疑うしかなかった。彼は辟易しながら質問する。
「あぁ、恨んでいるとも。この手で丸焼きにしてやりたいほどだ」
 握りしめた拳を震わせるマフォクシー。もう片方の手で持つ木の枝の先端がひとりでに燃え上がる。
 いったい何をすればここまでレナードさんの怒りを買えるのだろう? 彼の頬を冷たい汗が流れ落ちる。
「こいつらは……違法伐採者だ」
「イホウ……バッサイシャ……?」
 聞いたことのない言葉だった。ベロベルトは首を傾げる。
「無許可で切った木を売り捌いて暮らしている連中のことだ。林の一つや二つなんか序の口で、森なんかも平気で全部切り倒して金に換えちまう。とんでもない奴らだよ」
「も……森を全部だって……!?」
 開いた口が塞がらなかった。彼は危うく顎を外し掛ける。
「困るよ、そんなの! 住む場所と食べ物がなくなっちゃうじゃないか! オイラ達のことも考えてもらわないと! オイラの夢だって潰されちゃうよ!」
 頬を膨らませて不満を露わにするベロベルト。一方のマフォクシーはやさぐれた表情を覗かせる。
「お前さん達のことが頭にあったら初めからこんな恐ろしい所業に手を染めたりせんよ。自分達さえ良ければ他の連中がどうなろうと知ったことではないのだろうさ」
「なっ、なんて奴らだ……許せない……!」
 二の足を踏んでしまったのが馬鹿らしかった。バツ印の方角を睨んだ彼は全身を戦慄かせる。
「怒って当然だ。こいつら一味にどれだけ街の住民を殺されたことか……!」
 読んで字のごとく憤怒の炎を燃え滾らせるマフォクシー。膝をにじって枝の炎から体を遠ざけたベロベルトは驚いた表情を向ける。
「……えっ? それってどういう意味? 何で街に住んでいる子達が死んじゃうのさ?」
「去年の夏の終わり頃に来た嵐を覚えているか? 一日いっぱい大風と大雨が続いた時があっただろう?」
「そりゃあ……覚えているのは覚えているけど……?」
 ただでさえピンハネされる境遇にあったオイラから果樹園の収穫を奪い去って行った大嵐である。忘れる筈がなかった。
 だが、それとこれと何の関係があると言うのだろう? その疑問を解決するべくマフォクシーが口を開く。
「その嵐が去った翌日に街を鉄砲水が襲ったんだ。あまりに突然で逃げる暇もなかったんだろう。運悪く川の近くにいた奴らが何匹も押し流されてしまってな。警察の連中が血眼になって探したが……生きて見つかったのは俺の両手で数えられる程だった。後の奴らは見つからずじまい。とうの昔に海の底でサメハダーの餌食になった後だろう」
 あまりにショッキングな内容に呆然と耳を傾けるしかなかった。彼は一呼吸おいてベロベルトの顔を見据える。
「さて、お前さんに質問だ。ここまでの被害を出したのは、ひとえに過去の記録から推測して、街に鉄砲水が押し寄せる心配はないと皆が判断してしまったからに他ならない。いわゆる想定外が起こったワケだが……その原因は何にあったと思う?」
「まっ、まさか……」
 顎に手の甲を当てて意味深な視線を送るマフォクシー。今までの流れから言って答えは一つしかなかった。
「そう、そのまさかだった。どう考えてもおかしいということで、街の上流に調査団を送って色々と探らせたら……案の定だった。奴らめ、源流に近い川沿いの一帯を丸裸にしていやがった。降った雨を受け止めて水害を防いでくれていた存在を誰の断りもなしに根こそぎ売り飛ばしていたんだ」
 ここでも地図が大活躍だった。彼は枝の炎で問題の現場を明るく照らし出す。
「その子達は……捕まったの? これだけ酷いことをしておいて許してもらえるワケがないよね?」
「いいや、まだだ」
 ベロベルトの問い掛けに彼は力なく首を左右に振るう。
「連中もこちらの動きを察知していたらしい。応援で駆け付けた警官隊が奴らの隠れ家に踏み込んだ時には既にもぬけの殻だった。今もどこかを逃げ回っているんだろう」
「あぁ……」
 頭を垂れたベロベルトの口から落胆の声が漏れる。
「殺された連中もそうだが、不憫でならないのはルールを守って真面目にやっている木こり達だ。奴らだが、タダ同然で木が手に入るのを良いことに、不当に安い価格で木材を市場に卸しているんだ。恐らくは、価格で太刀打ちできない真面目な木こり達を破綻させて市場を乗っ取る気でいるんだろう。この状態が続けば堅気の木こり達は壊滅すると見て間違いない。森林にとっても悪影響は計り知れないだろう。意外に思えるかも知れないが、適度な伐採は森林が荒れ果てるのを防ぐのに欠かせない取り組みでもあるんだ」
 長話で乾いた喉に褐色の液体を流し込むマフォクシー。腕の体毛で口元を拭った彼は最後にこう締め括る。
「この際だからはっきり言っておこう。こいつらは紛れもない社会の敵だ。お前さん達を含めてどれだけの者達が一生を狂わされる羽目になるか……想像は付いたか?」
 言葉の最後で彼は枝の炎をベロベルトに向ける。
 市場の下りは今一つ分からなかったが、真っ当に生きる者達を泣かせていることは十分に理解できた。ベロベルトは大きく唾を飲み込んで首を縦に振る。
 これ以上ない利害の一致だった。彼はバツ印の一家を森の肥やしにすることを心に決める。
「よし、引き受けた! ここはオイラが一肌脱ぐよ! 紹介ありがとう、レナードさん!」
 やる気に満ちた表情で礼を述べるベロベルト。マフォクシーの顔に笑みが浮かぶ。
「おっ、乗り気になってくれたか! 嬉しい限りだ! すぐに行っても構わないが、次の満月の日の夕方に行くことを勧めるよ。この日だが、暦の上での秋の到来を記念して、家族や仲間と豪勢な料理を囲んで祝う風習があるんだ。恐らくは連中も例外でない筈だ。お前さんにとっては一度で二度おいしい最高の日になるだろう!」
「わぁ! そりゃ良いや! 美味しい料理を前菜に踊り食いを楽しめちゃうワケだ! 最高にワクワクするよ!」
 心を躍らせながら夜空を見上げるベロベルト。目に入ったのは西の空に沈みつつあった上弦の月だった。
「一週間後かぁ。腹ペコになるには丁度いい期間だね。明日から食べるのは控えておこうっと!」
 はるばる行くからには食べ尽くさなきゃ! ベロベルトは大きく膨れ上がった腹部に両手を当てる。
「それはそうと、レナードさん。その一家って美味しく食べられそうな子達なの? 種類とか分かったりする?」
 ある意味で最も重要な内容だった。そうでなければ紹介しないと知りつつも彼は好奇心から質問する。
「ふふっ、それは行ってみてのお楽しみ……と言いたいところだが気になるか。良かろう。お前さんにも見せてやる!」
 本領発揮の瞬間だった。マフォクシーは自信満々で枝の炎に手をかざす。
「おおっ、こりゃ凄い! こんなにも綺麗に見えるなんて……!」
 あまりに鮮明な映像に息を呑むベロベルト。妖しく揺れる炎のスクリーンに総天然色で映し出されたのは目当ての場所の光景だった。
 緑深い木々の向こう側に突如として現れたのはポツンと一軒家。違法伐採で手に入れた木を組み合わせて建てたのだろうか。三角屋根から飛び出たレンガの煙突が特徴的な二階建ての立派な丸太小屋だった。
「えっと、中も見せてもらっていい?」
「今やっているところだ。少し待て」
 肝心な部分を映すには相応の労力が掛かるらしい。炎にかざした手を小刻みに震わせる彼の眉間に三本のシワが寄せられる。
 家の全体を捉えた状態で止まっていた映像に大きな変化が起こったのは次の瞬間だった。さながらレントラーが瞳術を発動したかのように、家中の壁という壁が透けて内側の様子が丸見えになったのである。
「おっ……おほぉっ!」
 露わとなったのは魅惑の光景だった。ベロベルトは鼻息を荒くする。
 純白のテーブルクロスが掛けられた長机に所狭しと並ぶのは贅を尽くした料理の数々。その周りを囲む席に着きながら宴の始まりを待ちわびるのは――シャワーズ、リーフィア、グレイシア、そしてニンフィアの四匹だった。
 これだけでも十分すぎる程だったが満足するには早かった。暖炉の前には最後の一品の焼き加減を見守るブースターの姿が、階段を上った二階の寝室には昼寝をするサンダースの姿が、合計して六匹も一つ屋根の下に集っていたのだった。
 ……じゅるりっ!
 思わず舌なめずりをするベロベルト。量はもちろん質も最高であることに疑いなかった。
 大好きな親友を目の前にして申し訳ないが、食べるなら獣の肉、それも肉を食べる獣の肉だった。非常に発達した複雑な体のつくりを持ち、縦横無尽に地を駆けて獲物を屠る能力を持った彼らには最高の栄養素が秘められているのだろう。その証拠に食べた後の腹持ちの良さと言ったらなかったし、何よりも……。彼は身体の中心に視線を落とす。
 そう、抜群に精力が付くのだ。飢えが癒やされたばかりの昨日と、栄養の大半を進化に費やしてしまった今日は感じられなかったが、下品な話、食べた翌日はムラムラして仕方なくなってしまうのである。
 まさに生きる完全栄養食と言っても過言ではない存在だった。これら全てを胃袋に収めてしまえるなんて……! 考えただけで興奮が抑えられなかった。半開きになった彼の口から幾筋もの涎が滴り落ちる。
「おっ……おい! もう良いだろう!? いつまで続けさせる気だ!?」
「へっ……?」
 彼を現実に引き戻したのはマフォクシーの苦しげな声だった。見れば必死の形相で枝の炎に手をかざし続ける彼の額に大粒の汗が光っている。念力の使い過ぎにより体が悲鳴を上げ始めたのだった。
「……うわわっ! ごっ、ごめんなさい、レナードさん! すっかり忘れてた!」
 慌てて枝の炎から顔を遠ざけるベロベルト。同時に限界を迎えたマフォクシーは、マッチの火を消すかのように枝を上下に振るって炎を吹き飛ばす。先端から白煙が立ち昇るのみとなった枝を腕の体毛に戻す頃には、六匹の姿は完全に消え去っていた。
「……ふぅ。前にも言ったろう? 念力を使うのは全力疾走するのと同じ。そう長らく体力が続くような行為ではない、とな」
 胸に手を当てながら肩を上下させるマフォクシー。ベロベルトは深い反省の気持ちを募らせるのだった。
「それにしても……こんなのよく見つけたね? ずっと森で暮らしているオイラ達でも気付けなかったんだ。やっぱりレナードさんは凄いよ」
 感心されるも複雑な気持ちだった。マフォクシーの顔に力ない笑みが浮かぶ。
「悪いが最初に見つけたのは俺じゃないんだ。先週だったか。店に警察の航空隊の連中が飲みに来て、その中にコウモリと翼竜を足して二で割ったような……とでも言ったらいいのか。まぁ、とにかくそんな感じの奴がいてな。酔っ払った勢いでパトロールの最中に見聞きした事を仲間の隊員に片っ端から披露し始めたんだ。ご丁寧に、店にいた全員に聞こえる声量で何から何まで喋り尽くしてくれたよ。……要はそういうことだ。もちろん聞いた後で色々と裏を取りはしたが、発端は口の軽い警官の自慢話だったというワケだ」
 両手を組んで大きく伸びをした彼は遠くの夜空を見つめる。
「えっ、何それ? お酒で気が大きくなった拍子に秘密をバラしちゃったってこと? 聞かれてマズい相手が近くにいたらどうするつもりだったのさ?」
 脇の甘いお巡りさんもいたものである。ベロベルトは呆れ果ててしまう。
「全くだ。そんな奴は来ないから良いものの、他の店でやらかしていたらどうなっていた事やら。戦いに行く機会があったら爆音波で叩きのめして生き血を啜ってやるとか何とか抜かして盛り上がっていたが……あんなヒヨッコ共に相手が務まるものか。せいぜいピンクのリボンの奴に首を絞められて森に埋められるのがオチだろう」
 熟練の捕食者にとっては餌に過ぎない彼らも、新米の警官達が相手となれば話は別だった。マフォクシーは冷静に分析する。
「なるほどね。最初に見つけたのは街のお巡りさんだったんだ。となると……マズいなぁ。先を越されちゃったら台無しじゃないか。次の満月なんか待っていられないよ」
「その心配は無用だ。焦らず予定通りの日に行くがいい」
「ええっ? どうして言い切れるのさ?」
 自信たっぷりに返すマフォクシー。ベロベルトは半信半疑で聞き返す。
「簡単な話さ。凶悪犯と違って直接的な危害を及ぼす存在でないだけに優先順位が低いんだ。下手をすれば向こう数ヶ月は警官隊を送り込んで来ないだろう」
「す……数ヶ月だって? いやいや、流石に遅すぎるでしょ? 何でそんなにも掛かっちゃうのさ?」
 そう思われても仕方あるまい。マフォクシーは苦渋の表情を浮かべる。
「どうにもこうにも現場が回らないんだよ。……そいつに熟練の隊員を殺されまくって、後に残ったのは訓練を終えただけのヒヨッコばかり。そんな状況の連中に重要度の低い奴らまで相手にしていられる余裕なんてないのさ」
 ベロベルトは顎でしゃくられた自身の腹部に視線を落とす。
「なるほどね。そういうことか……」
 やはり埋めようのない穴を開けられてしまっていたのだ。彼は改めて事の重大さを思い知らされる。
「そういうことだ。……お前さんにも頼んでおくが、もし活動している警官を森の中で見掛けても、邪魔にならない限りは俺の顔に免じて温かく見守ってやってくれ。お願いできるか?」
 断る理由がなかった。彼は即座に首を縦に振る。
「うん、分かった。頼りない子が多いみたいだし……積極的に手助けさせてもらうよ。返り討ちに遭うのを見守ったって仕方ないもんね」
 マフォクシーは細い狐の目を一層に細くする。
「ありがとう! お前さん達の協力があれば連中も心強いだろう! よろしく頼むよ!」
 もう少し頼り甲斐のある子達だったらなぁ。差し出された手を笑顔で握り返す一方、彼はもどかしい気持ちを募らせるのだった。
「でも、まぁ……」
 彼は再び地図に視線を落とす。
「横槍が入る心配がなさそうで安心したよ。何かと干渉されるのも考え物だし、頼りないくらいでちょうどいいや。……よぉし! 今度の満月の夜は食べまくるぞぉ!」
 改めて胸を熱くするベロベルト。……が、その直後だった。彼は別の不安に襲われてしまう。
「今度はどうした? 狐につままれたような顔しやがって。……まったく、前にも増して無駄のない引き締まった体になったもんだ!」
 脇腹の分厚い贅肉を鷲掴みにされるも、ツッコミ返す余裕はなかった。思わず相手の肩に縋りついた彼は上ずった声で切り出す。
「ね……ねぇ、レナードさん? オイラ今まで色んな子を食べて来たけど……命を奪っちゃうって意味では、コイツがやって来たことと何一つ変わらないワケだよね……?」
「……むっ? まぁ、確かにそうだな。だが、それがどうした?」
 マフォクシーは引き気味に答える。
「今のところはオイラ達とレナードさん以外に誰も知らないから大丈夫だけど……もしオイラが他の子を食べまくっていることが明るみに出たら、オイラもお巡りさん達に追われる身になっちゃうのかなぁ……?」
 頭の両側に手を当てた彼は体を震わせ始める。
「はっ……?」
 呆気にとられてしまうマフォクシー。直後に腹を抱えた彼は大笑いし始める。
「もぉ、なんで笑うのさ!? 真剣に悩んでいるのに!」
 怒りを露わにされるも笑いは収めようがなかった。足をバタつかせ続けるマフォクシーの目尻に涙が浮かぶ。
「……あぁ、笑って悪かった! 何を言い出すかと思えばそんな事か。身構えて損をしたよ!」
 そんな事とは失礼な。憮然とした顔で睨んだ彼に驚愕の事実が告げられる。
「安心しろ。その可能性は万に一つもない。お前さん達の生きるためにやむを得ない行為まで罪に問える道理がないからだ。野生で暮らす者達に街のルールは適用されないのさ」
 さながら頭を引っ叩かれたかのような衝撃だった。彼は両目を見開く。
「えぇっ!? それじゃあ……いったい誰が悪いことになるのさ!?」
「うぅむ、良いとか悪いとかの話ではないんだが……」
 尋ね返された彼は複雑そうな顔をする。
「まぁ、あえて挙げるなら、お前さんの大便に化けてしまった連中自身か。知らなかった奴は論外として、リスクを承知で森に足を踏み入れているワケだ。こればかりは自己責任と言わざるを得ないだろうな」
「ということは……オイラは捕まる心配をしなくていいの?」
 マフォクシーは首を縦に振る。
「その通り。極端な話をすれば、今ここで俺をペロリと平らげてしまったとしても、お前さんは誰にも咎められずに済むということだ。もう歳だし、おまけに痩せっぽちだから魅力の欠片もないだろうが……こんな俺でも美味しく食べてくれるか?」
 両手で胸を隠した彼は恥ずかしそうにしてみせる。
「たっ、食べないよ! なんでそんなことしなきゃいけないのさ!? レナードさんはオイラの友達じゃないか!」
 両手を前に突き出して激しく首を左右に振るうベロベルト。マフォクシーの顔に笑顔が浮かぶ。
「ははっ、そう言ってもらえて嬉しいよ! これからも仲良くやろうな!」
 肩に腕を回した彼は桃色の柔らかな巨体に上体を預けるのだった。
「……とまぁ、そんな具合だ。お前さんが気に病むことなんて何もないのさ。せいぜい腹を空かせて楽しみに待っているがいい!」
「うん、分かったよ。ありがとう、レナードさん!」
 上体を戻した相手に会釈するベロベルト。段々と睡魔に襲われつつあった彼は背中を倒して仰向けになる。
「……あぁ! 安心したら眠くなって来たよ! 今日はここで寝ちゃおうっと!」
「こらこら、食べてすぐ寝るとミルタンクになっちまうぞ?」
 そんなの迷信だ。ベロベルトは舌を出してみせる。
「べー、だ! なったことないもん! ……そう言うレナードさんも寝転がっちゃいなよ。今なら綺麗に見えるからさ!」
 彼は夜空を見上げて声を弾ませる。
「見える? 何が見えるんだ?」
「いいから、いいから! ほら、早く!」
 言われた通り仰向けになるも夜空が見えるのみだった。どこからか雲が流れて来たらしい。お世辞にもクリアな星空とは言い難かった。
「いつも通りの夜空じゃないか。……くそっ、雲が邪魔でよく見えないな」
「ふふっ! 良かった、レナードさんにも見えているね! ……よぉく目を凝らしてごらん? それ、雲じゃないから!」
「……なに? どういう意味だ?」
 両手で瞼を擦って神経を集中させるマフォクシー。ハッと息を呑んだのは次の瞬間だった。
「んなっ……!? こいつは驚いた! 天の川じゃないか!」
 雲と思い込んでしまった物体の正体――それは天球を埋め尽くす無数の星々の集まりだった。彼の驚嘆の声が夜空にこだまする。
「その通り! 夜も明るい街じゃ見られないでしょ?」
「あぁ、ここまで凄いのは初めてだ……!」
 畏敬の念すら覚える光景だった。顔を横向けた彼は興奮した表情を覗かせる。
「ねっ? こんなも綺麗な夜空だって独り占めできちゃうんだ。前に会った時も話したけど野生の世界も捨てたものじゃないでしょ? だから……もし街での生活に疲れちゃったらレナードさんもおいでよ。オイラ、彼女、そしてレナードさん。きっと最高のトリオになれると思うんだ」
 秘めていた胸の内を打ち明けるベロベルト。たった一匹の狂気により仲間の大半を失ってしまったのである。その思いはひとしおだった。
「そう言われると心が揺らぐよ。野生への回帰、か。こりゃ哲学的だな……」
 両手を枕にして足を組みながら考えに耽るマフォクシー。仕事に夢中になりすぎて妻子から三行半を突きつけられてしまった苦い過去を持つ彼には魅力的とすら思える選択肢だった。被害を防ぐためにやむを得なかった殺生が殆どだったとはいえ、猟師として多くの命を奪い、それらを客に振る舞って得た金で生き長らえて来た身としては、捕食され、そして排泄されて大地の一部となって生涯を終えたとしても、化けて出ないだけの自信と覚悟はあった。
「分かった、よく考えておくよ。今日はもう遅いから次に会った時にまた詳しく話そう!」
 大いに興味はあった。が、そう答えるのがやっとだった。街での役割を放棄する訳には行かないのである。そう言って彼は話題を切り上げる。
 後は大自然が織り成す幻想美に圧倒されるのみだった。二匹は我を忘れて見入ってしまう。
「まさに絶景だな。いつまでも見ていられるよ」
「うん、絶景だ……!」
 絶景と言えばもう一つあった。ベロベルトは風船のように膨らみきった自身の腹部に視線を落とす。今や完全に熟れて続々と胃袋から先に流れて行っているらしい。焚き火の音に混じって聞こえてくる腹の虫がギュルギュルと鳴く声からも明らかだった。
 ねぇねぇ今どんな気持ち? 心の中で呼び掛けるベロベルト。一昨日からお肉ばかり食べているから良い匂いに仕上がること間違いなしだろう! 今から君は散々ゴミのように扱って来たオイラのウンチにされて、そのオイラのお尻からブリリと絞り出されちゃうのだ! そう思うと痛快でならなかった。彼は低俗な妄想を膨らませる。
 どうか明日も快便でありますように! お腹の黄色い模様にベロリと舌を這わせた彼は満天の星空に願いを込めるのだった。
「おっ、流れ星だ!」
「……えっ!? どこだい!?」
 慌てて空に視線を戻すも時すでに遅し。とうの昔に消え去ってしまった後だった。
「バカモン! 夢見るお前さんが脇見してどうする!? 俺達の真ん前を通り過ぎて行ったんだぞ!?」
 マフォクシーは空を指差しながら一喝する。
 やってしまった。こんな綺麗な星空の下で汚いことを考えていたから罰が当たったのだ。彼は恥ずかしい気持ちを募らせる。
 次こそは。よそ見をやめて夜空を一心不乱に見つめ始めるベロベルト。懺悔が天に届いたのだろうか。程なくして彼に決定的瞬間が訪れる。
「……あっ、見えた!」
 天の川を翔る一閃の光。見間違いなどではなかった。彼は今度こそ流れ星を目撃する。
「おぉっ! あそこにも!」
 そして三本目。マフォクシーは体を跳ねさせる。そのまま四本目、五本目、六本目。後は際限がなかった。快晴の夜空を流星群が彩り始める。
「ははっ! こいつは傑作だ! 俺達の将来もこれで安泰だろう! ……なぁ!」
 上体を起こした彼の視界に飛び込んで来たのは大きな鼻提灯。たちまち彼は目を点にする。
「……まったく! せっかくの感動が台無しじゃないか! どこまでマイペースな野郎なんだ、お前さんは!」
 胡坐をかいて腕組みをした彼は寝顔に向かってチクリと毒を吐く。が、それも束の間、途端に彼の頬が緩む。
「ま、そんなお前さんに惚れ込んだ俺も大概なんだがな。何をしても憎めない奴だよ」
 後は俺が見ておいてやる。心の中で呟いた彼は残り少なくなったボトルを持ち上げる。
「……大自然に乾杯!」
 透き通った琥珀色の液体を星降る空に重ね――そして一気に飲み干す。程なくして酩酊状態に陥った彼は空瓶を放り出して大の字で寝転がる。
「うっぷ……あぁ、食い過ぎた上に飲み過ぎちまった。俺もこのまま寝ちまうとするか……」
 たまには物臭をするのも悪くないな。彼は満天の星空に微笑み掛ける。
 この大パノラマを街の連中にも教えてやろう。確と目に焼き付けようとする彼であったが、落ちていく瞼には抗えなかった。それから数分後、彼もまた桃色の怪獣の横で大いびきを立て始めるのだった。
 お尋ね者、生死を問わず、賞金一千万ポケドル、不死身の暴君――。街中に貼りまくられていることで却って頭に残らなかったのかもしれない。重要な一節を忘れたまま、彼はお尋ね者が倒されたことを証明するに足る証拠の何もかもを腹の底で溶かしてしまうのだった。
20/05/07 18:16更新 / こまいぬ
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■作者メッセージ
お久し振りです。
続きを書きましたので投稿させて頂きます。

調理して食べるのは少し悪趣味だったかもしれません……。

毎度のことで申し訳ないのですが、
色々と勉強しなければいけない事が出て来ましたので、
向こう一か月半程度、創作をお休みさせて頂きます。

よろしくお願いします。

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