2匹の蛇

バレンシアの大学に通うある少年、アンヘルは都会での生活を少しの間リセットするために田舎にある彼の叔父のフリオの山小屋で生活を始めた。

彼と彼のポケモンたち:サンダースとガーディは、毎日家の仕事を分担し仲良く暮らしていた。

「アンヘル、そろそろ火を点けるかい?」
「ああ、お願いするよフエゴ(Fuego)。」

アンヘルは幼い頃からポケモンと会話することができた。彼が自身の不思議な能力に気づいたのは4歳の頃だった。: パティオに迷い込んだポケモンを助けたとき、そのポケモンは彼に『ありがとう』と言ったのだ。

ガーディのフエゴはランタンに火を灯した。すると部屋はぼうっと明るくなり、火が揺れると共に彼らの影も揺れていた。

この山小屋には電気やガス、水道は通っていない。そのため、飲み水は近くの沢の湧水を利用し、調理や灯りにはフエゴたちの力が必要なのである。

「アンヘル、充電終わったよ!」
「ありがとう、エレクトリコ(Eléctrico)…これで、ラジオが聞ける。」
「この国は先進国だけど、こういう暮らしも悪くないね。」
「そうだね。」

一通りラジオを聞き夕飯を食べ終えると、ベッドに横たわった。
「明日は歩き回るよ。」
「どのくらい?」
「さぁね…消すよ。」
アンヘルはランタンの火を吹き消した。


翌朝、アンヘルはフエゴとエレクトリコを連れ、ナイフと2つの麻の袋を持って森の奥深くへと入って行った。
「日が暮れるまでには戻ろう。」

アンヘルは苔の生えた倒木を見つけるとナイフを取り出した。
「このキノコは美味しそうだ。」
「アンヘル、こっちのはどうだい?」
「そのオレンジ色のかい?一口でも食べれば内臓の筋肉が麻痺するよ。猛毒だ。」

袋いっぱいにキノコや野苺、山菜を詰めると松の木のある場所へ向かった。
「木の切り口から樹液が出てるだろう、これで石鹸を作るんだ。」

彼らを茂みの中から見てるポケモンたちがいた。
「あいつ、汗かいてるな。」
「そうね。食べごろかしら?」
「あのくらいの歳なら…美味いはずだ。君があの坊主を食うってんなら俺は奴の連れで我慢するぜ。」


アンヘルたちは来た道を引き返し始めた。
「良かった、まだ3時だ。」
木の影を見て、アンヘルは安心したかのように呟いた。
そのとき、アンヘルの首に何かが巻きついた。
ナイフを取り出すとそれを切り離した。首に巻き付いていたものを引き剥がすとそれはツタのようだった。
「誰だ!出て来い!」
フエゴとエレクトリコが唸り声を開けていた。
すると、茂みの中からジャローダとハブネークが出てきた。
「食べ物を横取りする気だ。」
「いいよ、置いて行こう。」
アンヘルは袋をその場に置いた。
「キノコと木の実はこの中だ。ここに置いて行くよ。」
だが、ハブネークとジャローダは道を開けようとはしていなかった。
「うふふ、見れば見るほど美味しそうね。」
「見れば見るほどって…何のことだ?」
「え⁉…私の言葉分かるの?」
「まあね。で、何がそんなに美味しそうなんだ?」
「お前たちのことだよ。」
「僕たち…?僕たちを食べる気?」
「ああ、そのつもりだ。」
「アンヘル、ここ任せて。君は行くんだ!」
「フエゴ…」
アンヘルが脇から逃げた。それをジャローダが妨害しようとしたが、エレクトリコの技を食らったため出来なかった。
バチバチと電気の起きる音と葉を焼く臭いが生々しく感じられ、炎の熱が背中をじりじりと焼き、髪を焦がすのも感じられた。

アンヘルは走り続けたが、倒木に躓いてしまった。折れた小さな木片が彼の脚に刺さって出血していた。
立ち上がろうとしたとき、再び何かが巻き付いている感覚があった。見ると、今度はツタではなく太い緑と白の胴体がアンヘルの体に巻き付いていた。何重にも巻かれ、とうとう身動き1つ取れなくなってしまった。
「捕まえた。」
拘束を解こうとアンヘルはもがこうとするが、全く効かずむしろ逆効果だった。
「動けば余計に苦しくなるわよ?」
ジャローダが締め付けをさらに強めるとアンヘルの体中の骨がギシギシと音を立て始め、顔が真っ赤になっていた。
「やめろ……お願いだから…」
「少しだけ楽にしてあげる。」
「み、右肩が…外れた。」
ベロリ…
「美味しい。」
真っ赤な舌がアンヘルの顔を舐めた。生臭い涎が鼻や口に入ってしまった。気持ち悪さに耐え切れず、ぺっと口に入った涎を吹いた。
「うぅ…臭い…気持ち悪い…」
だが、ジャローダの嫌がらせはよりひどくなった。
顔を舐め回し終えると、そのまま彼の頭を咥え込み口の中であたかも飴玉を舐めるように嫌と言うほど舐め回したのだ。

お腹を膨らませたハブネークが彼女に追いついたとき、彼女の口から唾液の糸を引くアンヘルが出てきた。
「食べるならさっさとやれよ…」
アンヘルは鼻の曲がるような生臭さに半ば激怒していた。
「じゃあ、食べちゃうわよ。」
そう言うと彼を頬張りゴクリと音を立ててゆっくり呑み込んだ。


腹の中はとても蒸し暑く、咽せるような悪臭で満たされていた。胃液の中に、前に食べられたであろう生き物の骨があった。
「うわぁっ⁉…」
自分もこうなるのかと思うと体の震えが止まらなかった。

やがてぐにょぐにょと動く胃壁の幅が狭まり、服は胃液で穴が所々に空き皮膚は真っ赤になり体が溶かされ始めていた。声にならない叫び声を上げ、ショックで気を失ってしまった。
ジャローダとハブネークはその場で気持ち良さそうにうとうとしていた。
「この坊や前に食べた男よりずっと美味しかったわよ。」
「俺もそいつを食ってみたかったなぁ。」
「もう、溶けちゃったわよ。」



2匹の目が睡魔によって閉ざされようとしたとき、信じられない現象が起こった。
「おい……まさか…そこにいるのは、さっき君が食った坊主か⁉」
「えっ⁉…そ、そうだわ。」
なんと2匹の目の前にアンヘルが食べられる前の姿で横になっていたのだ。
ハブネークは尻尾でツンツンと彼の体を突いた。
「うわぁぁぁぁ‼」
彼は自分の目の前にいる2匹を見て、恐怖の声を上げた。
「いや…俺たちも叫びたいんだが…」
「なんで僕はここに…⁉服も破れてない…」
「こっちも怖ーよ…今日初めて会った人間が俺たちの言葉を理解して、生き返っちまうなんて…」
「君がやったのか⁉」
アンヘルは恐る恐るジャローダに聞いた。
「いいえ。そんなこと私には出来ないわ。」
「じゃ、誰が…?」
「お前自身の力なんじゃないか?」
「僕の力?」
少しの間の後、アンヘルはあることをハブネークに尋ねた。
「フエゴとエレクトリコは?」
「えっ…いや…もう…消化しちまった。」
そうハブネークが伝えるとアンヘルは泣いた。だが、似たような現象が再び起きたのだ。
「アンヘル…俺…」
「フエゴ⁉…フエゴだよね?良かった…」
生き返ったフエゴを抱きしめていると、知っている声が聞こえた。
「アンヘル…フエゴ…生きてたんだね…」
「エレクトリコ‼」
泣きながら、アンヘルは生き返ったエレクトリコも抱きしめた。
「お前ら‼…アンヘルに何もしてないだろうな⁉」
「もういいんだよ、フエゴ…帰ろう。」
ハブネークとジャローダを睨みつけていたフエゴを抱えると、歩き始めた。あたりは暗くなり、ランプの中のフエゴの炎がぼうっと揺らいぐ影を作り出していた。
「おい、忘れ物だ。」
ハブネークは麻の袋をアンヘルに差し出した。
「いらないのかい?」
「俺たち実は…キノコとか木の実じゃなくて、お前らのような“肉”が好きなのさ。」
「確かに、草食ポケモンじゃないもんね。」
「あんなことしてごめんなさい!とても酷いことしたわよね。」
ジャローダは申し訳なさそうに頭を下げていた。
「大丈夫。許すよ。でもその代わり、僕たちと一緒に暮らしてくれるかい?」
「もちろん良いわよ。」
「ああ、いいぜ。」

帰り道、ジャローダは先導していた。時折、アンヘルとエレクトリコの方を確認していた。エレクトリコはジャローダと目が合うたび電気を発生させていた。
後ろについているハブネークをフエゴは懸念の目で見ていた。
「もう一度俺を食おうとしてみろ、貴様をバーベキューにして食ってやる。」
「食わねーよ。」

山小屋に着くと、夕飯を作りみんなで食べた。

「ところで、あの松脂は何に使うんだ、アンヘル?」
「石鹸を作るんだ。…僕の名前覚えてくれたんだ、ありがとう。」
「なぁ、もし俺に名前をつけるとしたら、どんな名前にする?」
「ベネノ(Veneno)かな…」
「私には…?」
「ラルガ(Larga)がいいと思うよ。」
「気に入ったぜ。」


ベッドに入ると、フエゴとエレクトリコはすぐに眠ってしまった。アンヘルも眠ろうとしたが、ベネノが何か聞きたいことがあったようだった。
「何だい、ベネノ?」
「食べてもいいか…?お前を…」
「溶かさないって約束してくれるなら。」
「もちろん。」
ベネノはアンヘルの体に巻きつくと、優しく呑み込んだ。
「美味い!」
あまりの美味しさに、舌舐めずりをしてしまった。
30分後、アンヘルを吐き出すと尻尾を器用に使って彼の体をタオルできれいに拭き、ベッドに寝かせた。
「このくらい薄めれば…」
ベネノの牙の先から紫色の液が垂れ、アンヘルの唇に落ちた。アンヘルはそれを舐めとると、たちまち深い眠りに落ちた。
「よく眠れるぞ。目覚めはすっきりだ。」
ベネノは自分の毒を極限まで薄め、害のない睡眠薬の滴に作り替えたのだ。


翌朝、アンヘルはコーヒーを飲む必要がないほどすっきりと目を覚ました。

こうして彼らの新しい生活が幕を開けた。

To be continued













名前の意味は単純です。
Fuego:火
Eléctrico:電気
Veneno:毒
Larga:長い

単語の意味
パティオ:中庭

原文作者:ハビエル(Javier)
なるべく、原文(スペイン語)を崩さず訳したため変な日本語になってしまいました。
[捕食小説投稿所A]
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