僕とバンギラスのバンさんは居酒屋で呑んでいた。
「さあ、何が呑みたい、ハルくん?今日は俺が出すから大丈夫だよ。」 「奢ってもらうなんて悪いです。」 「遠慮はいらないよ。20歳になって初めての酒だろう?何か呑んでみたい酒とかないのかい?」
僕とバンさんはとある居酒屋で知り合った。バイトをしていたとき、バンさんは常連として僕が出ている日はほぼ毎日会いに来てくれて僕と話してくれた。
「そうですね…それでは一番度数の低いレモン酒をお願いします。」 「了解。大将、レモン酒と焼酎!」 「はいよ!その子は連れかい?随分と若いね?」 「最近20歳になったばかりなんだ。去年の12月にスペインから帰って来て、今日遅めの帰国祝いってことでここで呑むことにしたのさ。」
大将は僕らの座っているカウンターに酒の入ったグラスを置いた。 「それじゃ、ハルくんの帰国に乾杯!」 「乾杯!」 一口呑んでみると甘さが口に広がったが、同時に喉を熱いものが通るのを感じた。 「Wow…熱い」 すぐさま水を流し込んだ。 「初めてはみんなそうなるさ。俺は今42でほぼ毎日呑んでるけど、ガキのころは何が美味しくてみんな呑むのか分からなかった。ちなみに俺は18のときに呑み始めたよ。」
ふと隣を見るとバンさんは3杯目の焼酎を呑んでいた。 「そういえば、スペイン語で『乾杯』は何て言うんだい?」 「サルー(¡Salud!)です。」
談笑が続き気づけば終電の時間を過ぎていた。 「ありゃ…やっちまったぁ!」 「僕のアパートに泊まりますか?」 「それはダメだよ。だってこんな臭いおっさんが一緒に泊まるんだよ?」 「奢って貰っといて何のお礼もしないなんて失礼です。ぜひ泊まってください。」 「そこまで言うなら……泊まろうかな。」 「ありがとうございます。ここから歩きで大体15分くらいです。」 僕はスマホのナビを頼りに進んだ。
そして、やっと僕のアパートに着いた。 鍵を開けて中に入った。 「結構歩いたなぁ。ハルくんも疲れたんじゃないかい?」 「僕はそうでもないです。」 「若いなぁ。」
僕が洗面所で歯を磨いていると、バンさんのうおっと何かに驚く声が聞こえた。見てみるとバクとユキがいたのだ。 「分かった。俺は酔っ払ってるんだ。」 「そうだ、お前は酔っ払ってるんだ。お前は何も見ていない。分かったな?『俺は何も見ていない。』復唱しろ。」 「俺は何も見ていない。」 バクはユキと一緒に鏡の世界へ戻って行った。 僕はグラスに水を入れてバンさんに差し出した。 「これで酔いが覚めるかもしれません。」 「ありがとう。」 バンさんはそれを一気に飲み干した。 「ハルくん、敬語はもうやめてくれ。」 「はい…うん。」 「距離があるのはあまり好きじゃないんだ…君と俺の間に。」 「僕もそう思っているよ、バンさん。」
僕がシャワーを浴び終わったときバンさんはベッドの上で横になっていた。 「電気消すよ。」 「オッケー…」 月明かりがカーテンから差し込み、部屋が少し明るかった。 「ハルくん…食べてもいいかい?」 「もちろん。」 薄明かりの中にバンさんの目が黄色く光っていた。僕は冷や汗をかいていた。バンさんの横になっている隣に座ると、バンさんは僕をギュッと自分のほうに抱き寄せて顔の目の前に寄せた。 ベロリ、ベロリ… 生臭いバンさんの舌が僕の顔を舐め回し、獣臭く熱い息が僕の髪を揺るがした。 べちゃ 僕が息をしようとするとすると大きな舌が僕の口元を覆った。 「うえっ…」 「お…ごめん…少しやりすぎたな。やっぱりおっさんは臭いか?」 「少しだけだよ。」 バンさんは大きく口を開けて僕を優しく口の中に収めた。口の中で舌が僕の体をなぞりシャツの下に入って僕の肌を舐めていた。少しするとベタベタした涎が全身を覆い、ゴクリというとともに呑みこまれた。
胃では胃壁がぐにょぐにょと僕の体を包んで行った。思っていたより暖かく、気持ち良かった。すぐに眠気に襲われ、体を胃壁に預けて僕は目を閉じた。
チュンチュンと鳥のさえずりが聞こえてカーテンからは陽が差し込んでいた。目が覚めると同時に鼻につく嫌な臭いがあった。顔や髪を触るとベタベタとバンさんの涎がまとわりついていた。さらに僕はがっしりとバンさんの腕に抱かれていて体を起こせなかった。 「ん…おはよう、ハルくん。」 「おはよう、バンさん。」 ふぁ〜 バンさんは僕の顔の目の前であくびをした。 「うっ…」 僕が顔を背けると、バンさんは僕の頭を撫でた。 「ハルくん、もう一度食べてもいいかい?」 「いいよ。」
その後、昼食を一緒にとった。 「また一緒に呑もうね、ハルくん。」 「そうだね、バンさん。」
バンさんは最後に僕の頭を撫でてくれた。
FIN
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