連載小説
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シーン9
 じっとりと汗ばむ熱気の中、洞窟の主のベロリンガは燃え盛る焚き火の脇で大の字になりながら大いびきをかいている最中だった。時は胃袋の中のブラッキーが最後の抵抗を試みてから三十分が経過しようとしていた頃、驚くことにベロリンガは苦しむことはおろか、腹痛すら起こすことなく安らかに爆睡し続けていたのだった。
 彼が猛毒すらも養分に変えてしまう強靭な胃袋を持っていたかと言えば、そうではなかった。食あたりを起こさなかった秘訣は、彼とブラッキーが口にした干した木の実にあった。干した木の実の正体はモモンの実。ベロリンガ自身も含む甘党のポケモン達にとって最高の嗜好品であるそれは、多種多様な毒物を分解して無害化してしまう強力な薬用植物でもあった。ブラッキーが潜在的に有毒であることを知っていたベロリンガは、食中毒を未然に防ぐ目的で相手に干したモモンの実を勧め、更に保険を掛ける目的で自分も食べていたのだった。
 果たして彼の作戦は大成功に終わった。空腹の影響もあって勧められるがままバクバクと食べてしまったブラッキーが最後に分泌した毒液は、単なる色の付いた汗にも等しく、僅かに残った毒素も、胃袋の表面に触れた途端に分解され尽したのだった。
 そんな現実など知る由もないブラッキーは、自身の鼻血で真っ赤に染め上げた顔に全てを成し遂げた晴れやかな表情を湛えつつ、既に胃袋の中で絶命してしまっていた。死因は鼻血を出し過ぎたことによる失血死。残酷な虐殺者に待ち受けたのは、あまりにも恥ずかし過ぎる最期だった。
 やがて胃袋の内側は強力な胃液で満たされ、今や魂の抜け殻と化したブラッキーの肉体は内側と外側の両方から消化液に冒され、さながら湯煎されたチョコレートのようにトロトロと溶けて行くのだった。早いもので真夜中までには跡形もなく溶けてしまい、干したモモンの実とブラッキーの何もかもが溶け込んだ栄養満点のシチューが出来上がる。
 隠し味の甘酸っぱいリンゴのアクセントが利いたそれは、間もなくして胃袋の奥で胆汁のルーを練り込まれて風味豊かなブラウンシチューとなる。そして、御馳走の到着を今か今かと待ち望んでいた腸へと送り届けられて行くのだった。
 かくして彼も養分を吸われ尽し――情けなくも彼らは夫婦揃って食いしん坊の山椒魚の大便にされてしまうのだった。
 グェェェェッップ!
 明け方、すっかり胃袋を空にした熟睡中のベロリンガの口から特大のゲップが漏れる。溶かされた獲物の体臭がふんだんに混ざったそれは洞窟の出口に向かって漂って行き、雨上がりの暁の空へと消えて行ったのだった。
18/04/29 21:16更新 / こまいぬ
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■作者メッセージ
今回もお読み頂きありがとうございました。
……何と申し上げますか、色々と下品が過ぎる作品になってしまいました。
回収できていない伏線もありますし、少しでも救いのある展開にしたいので、
もうしばらくだけ続けさせて頂きます。
打ち切りを心配されてコメント下さった方、本当に申し訳ありませんでした。

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