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28日後

28日後

ミシェルは空腹を感じて目を覚ました。

「ひっ……時間の問題ってことね……」
鏡を見ると、バクフーンが写っていた。朝でもバクフーンの姿になってしまったのだ。
2階にいても美味しそうなパンケーキのにおいが漂ってくる。
「母さん、ご飯できたよ…」
ミシェルは困惑しつつもダイニングへと降りていった。
「おはよう、エミリオ……」
バリン
「おは……よう……誰?…………母さん……?」
エミリオは驚きのあまりグラスを落としてしまった。
途端にガルシアのことがフラッシュバックした。
「言わなきゃいけないことがあるの……」
「感染してるってことだろ?ガルシアもそうだった。」
「黙っててごめんなさい……」
「4週間くらい前?何に咬まれたの?」
「引っ掛かれたのよ、治療中のバクフーンにね。」
「……とりあえず……朝ごはん食べてから考えよう……」
エミリオの頭は混乱していた。

食事を終えて食器を片付けながらエミリオは考えていた。
「軍に電話すれば…母さんは…………」
そのときミシェルが床に崩れた。
「母さん⁉」
次の瞬間には、目を真っ赤にさせたバクフーンがエミリオの前に立っていた。
「みぃつけたぁ……」
エミリオは全身の毛が逆立つような感覚を覚え、その場から動けなくなってしまった。
今の彼女にはエミリオが息子ではなく獲物に見えてしまっていたのだ。彼女はカウンターを挟んですぐ目の前にいる獲物をどう捕まえ食らうか考えていた。
エミリオは一瞬だけ横に目をやった。それはガレージに続くドアだった。

そして、バクフーンがカウンターを乗り越えようとした隙を狙ってラザロを抱き抱えてガレージへと逃げた。ガレージには車がありまた、クローゼットもある。エミリオはクローゼットの中へと逃げ込むと内側から鍵をかけ息を殺した。

バクフーンはガレージに入ると車の中を覗き込んだ。
すると何を思ったのか窓ガラスを叩き割り身体を無理矢理ねじ込むと中を舐めるように見渡した。
「どこぉ…………」
クローゼットを見つけると、それを開けようとした。だがそこには鍵がかかっていた。考えた末に取った行動は体当たりだった。
今ににも破壊されそうなクローゼットの中でエミリオは必死に耐えていた。
(壊れるな!耐えろ!)
バキッ
神頼みも虚しくクローゼットは破壊され、バクフーンに見つかってしまった。
「捕まえたぁ……」
ガシッ
「や、やめろよ!母さん、母さんなんだろ⁉……目を覚ませよ!」
今の彼女は肉に飢えた獣なのだ。彼の声は届くわけがないのである。涙を流しながら抵抗するエミリオを外へ引きずり出すと、木片でできた彼の傷口の出血部を舐めていた。


『痛いっ!も〜ぉ、母さん!』
『どうしたのエミリオ……あら、血が出てるじゃない…………ハサミは気をつけて使わなきゃだめよ!』
『わかってるよ!』
『見せて……』
ペロリ
『これで大丈夫だからね。』


エミリオの6歳の時の記憶が不意に蘇った。
「やっぱり……母さんだ……」
しかし、そうも言い切れなかった。彼女は獣臭い息を吐きながらエミリオの顔を舐め回し始めた。臭い涎が顔を覆っていき鼻や口から彼女の涎が入ってくる。
「ううっ……苦しい…………母さん、俺だよ!エミリオだよ!」
だが、エミリオの目に入ってきたのは大きく開いた唾液の糸を引くバクフーンの口だった。
「嫌だ…」
エミリオは肩まで咥えられ嫌という程舐め回されていた。この頃にはエミリオは気を失っていた。

次に彼が意識を取り戻したのは、ぐにゅりと動く壁に囲まれた空間の中だった。呼吸をするたび喉がヒリヒリする。
「うぇっ…何だこの匂い……ここって…………胃……?」
やがて液体が湧き出てきたと思うと水位はあっという間に上昇した。
「痛っ!」
胃液が彼を溶かして、持ち主の栄養にしようとしているのだ。
「いいよ、もう…………母さんのためなら…………」
その言葉を最後にエミリオは胃壁に体を預けて目を瞑った。


息子を丸呑みにしたバクフーンは膨れた腹をさすりながら眠りについた。


28時間後
「入りますよ。」
軍の兵士がその家に入って、眠っている彼女の頭をライフルで撃ち抜いた。




28週後
ウィスコンシン州から恐怖のウイルス感染は無くなった。


FIN




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ご視聴ありがとうございました。
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[捕食小説投稿所A]
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