連載小説
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暗い暗い洞穴
(…どうすればいいんだ…)
右足の一寸先にはとてつもなく深い絶壁、その遥か下には雲海が広がっている。逃げ出そうとした先には、四本の爪で地面に踏み込み静かに自分を見下す竜の姿が。

彼を追いかけていた巨竜とは比べようも無いほどちっぽけだったが、それでも彼の視界をすっぽり覆ってしまっていた。

夜の闇のように青い、鋭い視線に晒され、視線が釘付けになってしまう。
ガクガクと震える膝の裏に汽笛の音と共に吹き出す煙の様な熱風があたり、今か今かと隙を窺いながら…影に潜み、自分にかぶりつこうとする巨竜の姿が脳裏にありありと浮かび、思考にまで震えが感染した様に感じる。

ごくっ…
時折痙攣しかける指先や背中を何とか静止(硬直化)させて、無意識に唾を飲んだ。
これを2、3回繰り返すと目の中だけが揺れ動いて、全身から吹き出す冷や汗と一緒に体が震えから立ち直った様に思えたが…
――『ねぇねぇ、そんなに怖い?」
「ひいっ!?」

突然目の前の竜に話し掛けられ、震えていた両足が弾かれたように折れ曲がってしまった。
体が後ろへ仰け反り背中ごと地面に激突する。

「痛っ!」
思わず地面に張った左手の方にビリビリと高電圧を流された様な痛みが走ったのを、見ると思わずギョっとしてしまった。

「う、うわっ、て…手が!」

生々しい血糊がべったりと垂れた左手のひらが、逆光が反射して、てらてらとしていた。生まれて初めて負った皮が剥がれる程の痛々しい派手な怪我にいよいよ冷静さを保っていられなくなった。
…ッ
ピントが合わず目が眩みかける。上を向き瞼をどうにか開けた。

「う…うわあアアアーーー!!」
白い太陽が真っ暗な2つの巨大な影にさえぎられて見えなくなっていた。
黒混ざりの寒々しい空色が広がる。
四つの目がギロリとこちらを睨んでいてジュルッと大きい方が口の中から赤い二股に分かれた舌をなめずっていた。
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着ていた麻は二つに引き裂かれ、グショグショにされ茶色に変色している。
「あうううぅ…ああぁ…」
べちゃ…ヌチュ…
人間一人の体よりも遥かに太い、触手のように艶かしい竜の舌が二つ合わさりお互いに貝合わせのようにして彼の小さき得体を包み込んだ。

しきりに柔らかい舌肉に埋もれる体を浮かせ、ハァハァと虫の息にも満たない呼吸を継ぐ。


『ね…死んじゃうよ…もう呑んであげなよ兄さん…ウマッング』

「ンン…何を…まだ食べ始めたばかりだぞ…ンンゴク…」
互いに舌を小刻みに動かし口の底に溜まった唾を、舌を出して口を狭めたまま、飲み込んだ。

嚥下音がほぼ同時だった事を認めつつ、一瞬だけでも目線が合うとはっと互いに目だけが横に向いた。

そして暫くしたあと、目線を下に戻し口移しに集中した。

ジュルッチュルッ…
二匹の蛇が互いに蔦のように絡み付き媒体となった彼の体を濡れ雑巾の如く引き絞った。

アムッ…
『…ウッ旨いね兄さん…。』
だらりと唾液に濡れ手足がストラップの紐の様に粗末に垂れ、意識朦朧とした人間の体を更に味わい尽くそうとしたのだろうか…弟竜が、唾液まみれの人間の体と一緒に絡み付いた兄竜の舌ごともぐもぐと口の中に引き寄せた。
…ンムンム…ジュルル… 二匹の口吻の隙間がゼロ距離に近くなっていく。
口を狭めた弟竜がふうと一息漏らしながら、棒あいすの様に人間の体を舐め回した。

「オマエ…が食う…?ンム」

『ンッ…ごめん…食べ…過ぎちゃったね…ンンッ」

あまりに積極的(?)な弟竜の様子に困惑し一方で背徳的な感覚を覚えながら、弟竜の瞳の動向を探る。

左右斜めにキョロキョロと動くその黒い瞳のどことないあどけなさに惹かれて、兄竜の目線は無意識にも弟竜の目に釘付けになってしまっていた。

『んうっ…兄さん?』

ふと口の中で生の鶏のささみの様にぐったりとした兄竜の舌に気づいてふと目を上げると、はっと目を見開いて兄竜の貫くような目線に思わず唾を飲んだ。
嚥下と共に喉の蛇腹がゴクッと小さく波打つ。

目が合った瞬間、互いに頬あたりが熱くなるのを感じた。

『う…あのさ…か、返す…からちょっと…っ』

「あ…あぁ…もう…ちょっ…と…」

『…えっ…あ…うん』

ヌル…
戸惑う弟竜の口の中に慎重にゆっくりと入れ込むと静かに大人しくなった弟竜をそっと翼で抱き込んだ。

「もう少しだけ…味わせろ…」

『…うん。』

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―――――
「もうやだ…たす…けて…」
からだじゅうが熱い唾液に浸り、ざらざらとした二匹の舌でなぶられ、所々が赤く腫れていた。  
何度も何度も舌肉に埋もれ被せられて竜の舌に溜まった涎を飲ませられてしまう。
もはやローションの様に唾液が全身をスライムの様に滑らかにしていた。視界がどしゃ降りの日に濡れた窓ガラスよりも見えにくくなっていく。瞬きをするだけでも一瞬剥がれ落ちるが、また数秒で全身が舌肉に埋もれ、唾液の海に落とされ、胃の中に貯まっていくねばねばしたなにか。

時折外に投げ出され様にされて、然し全く解放される様子でもなく、ただ理性だけが薄らいでいく。

もがいても這っても変わらない。唾液が絡み付いて離れない自分の体は一種のスライムと同様にのろのろとしか動きしか出来なくなったことに気づいた。
想像以上に体をコーティングしている唾液が重しとなってしまい、もはやうごけなくなっていたのだ。


「 …ふあっ」

抵抗する力がなくなったことで意識が落ちたかの様に感じたが、ふっと落ち込んでうつ伏せになって沈んだ肉のなかで、かろうじて意識だけが残った。

ムニュ…
(うう…気持ちいい…)

さっきまで必死に叩きつけていた手足を何事もなかったかの様に寛容に暖かく包み込んでくれていた。


(…何…だ…うう…)
「さっきまで」は感じられなかった得体の知れない不思議な感触が心を溶かしかけてくる…。
再び背後から押し潰されるようにサンドイッチされ全身が寝袋のように埋まる。爪先から頭までが終わりの見えない暖かい舌に包み込まれ、膝の裏や首筋、敏感な所までが程よく触られる。視界には、湯気の様に白いもやが掛かる。
(気持ち…よすぎる…くそ…)

早まった気持ちに理性が追い付かず、あっという間に引き離されていく。
(うう…やばい…)
熱湯風呂の中ですっかり伸びてしまった茹で蛸の心地。
うつ伏せになった状態で無理やり首を上げると布団の中から覗いた様な真っ白な外の色が映る。
…一瞬だった。
(…これが奴隷というものなのかも…)


丸一日暗い口の中で太陽もろくに拝めない舌の上、完全に少しも体は動かせず抵抗すると巨大な舌で痛め付けられ、絶望にうちひがれて何も出来ない。
永遠にも思える地獄の時。
食べられる事に快楽を感じ道徳的な何か永遠に忘れ去るのは人間である彼にとっては地獄と同じだった。

(く…う…また…)
埋もれていた舌肉がゴムのように固くなり手足が押し上げられる。
(いや、これは…)
ぬるりと腰斜めに差し入れられた舌がぐるりと頭の方に上がりうねってくる。


剥き出しになった肌にベルトのように巻き付いてくる。べちゃり…と舌先がぴったりと顔に貼りついて止まる。
…何がどうなっているのか判らない不安と強く締め付けられ服従せざるを得ない圧迫感が膨れ上がり、彼の道徳的な何かを遂に打ち崩してしまう…。

(あう…やば…良いかも、これ)

どろりと口の中に甘酸っぱい…液体が。
自分でも信じられないままごくりと…行ってしまう。
(…頭がぼんやりする…何だか…)
脳天の奥にチリチリとした痛みが走ったが、後はそれだけだった。と、同時にじわじわと体が芯から火照っていく…

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どろり…じゅぱっ
幼げな甘さの残る唾液が、人間の体を繭の様に仕立てているのを静かに舌先でつまみとる…。
  何故だか…弟(竜)の滑らかな舌が美味しい。そのそれぞれに乗っかったトロトロの唾液は口の中の味覚に絡み付く。

不思議と最後の口移しの時間はとてつもなく長くなっていた。兄竜自身はそれを自覚しないまま舌をゆっくりとたゆませ、人間のついでとばかりに唾液を練り混ぜ味わう…。


久し振りに感じた翼の暖かさにぼんやりと目を落として、虚ろな目を落として兄竜を眺める弟竜。
兄竜の目は「食事」に夢中で瞳の奥が興奮でぎらついていた。

弟竜のピンク舌から吸盤のように巻き付き食いついていた舌が一気に引き抜かれ兄竜の口の中に収められた。

二匹の口吻の間に、中々途切れ無い太い唾液の糸が出来ていた。
今までの一瞬を物語る唯一の証拠は風に煽られ地面に伏し、互いの涎の混ざって妙に生ぬるくなった塊を躊躇なく呑む兄竜。

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ごくっ下半身が火傷を負った様にじりじりと感じた。もしかしなくても、息遣いは荒いままだ。

軟らかそうな喉肉の穴に入れ込まれ一瞬はまりこんだかに見えたが、
すっかり半透明なナメクジの様に変わり果てた自分の体は重力に逆らえなかった。物凄い勢いで大量の唾液と一緒に喉の奥へと呑み込まれていった。

まるでそれほど大きい臓物を呑んだ時の様にうなり声と重なって山のように大きく波打ち、少し長い首の中を伝って腹の中に収まった。
…僅かに膨らんだお腹に手を当て、まだどこか物足りなさそうに洞窟の方を眺めた。

足元に乾き残っていた涎の水溜まりから洞窟へ続く四本爪の丸っこい足跡を暫く目で追っていたが、とりあえず兄竜は腹の底にまだ動く膨らみを暫く眺めることにした。

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ぐぶぶ…
(ああ…う…また変な所に出たな…)
ドクン…ドクン…

シンバリンのような激しい拍動が脳を揺らす…。

ドクンと一息なるたびに視界の色が反転しフラッシュバックのように反響し、暫くしてまたドクンと…。

揺りかごの中にいる赤ん坊の様な心地だった。
数秒間に見ている光景がコマ送りの如く不自然になり、ぼんやりと夢を見ているような気分になってきた。
相変わらず視界の周囲には結露の様に白いもやがかかり目の前の赤い肉しか見えなくなっていく。

(…あぁ…うぅ…さいっこうに気持ちいぃ…)

得体の知れない肉だらけの「生き物」が自分を支配しおもいっきり抱きついてくる。「獣」の様に全身が熱く情熱的に抱き締められ、「解き」ほぐされていく事に快感を感じた。

得体の知れない蠢く肉は黄色い汗を滲ませた。
(…//)
もう言葉を紡ぐ必要もなくなった。
いつまでも感じていられる。
「一つになろう…」

あぁ…また体が火照っていく…止められない止まらない
揺れる挙動。
ブレない快感の連作。

どろっ…あぁ…やめろ

溶かさないで…あわあ…
口が爛れていく

まだ感じていたい…のに…
うぅ…


どろっ
ゴポッズルズルズル…

爪先で突っついていた膨らみがすっと内側に埋もれていった。
すると、明らかに不満そうに顔をしかめ、

「また…腹が減ったな……」

自身の腹の大きさを憂いて深くため息を付き、
性懲り無く今度こそ「終い」を狩りに兄竜は飛び立った…。

――――――――――――――▼一方その頃…|

16/03/16 02:17更新 / みずのもと
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■作者メッセージ
はい、すいませんお詫びを申し上げます。
大幅に変更しました!
読み返していたら、状況説明だけの日記みたいにつまらなくなってたので、再び書き直しました!
混乱された方!
不快に思われた方!
または困惑された方!
申し訳ありません…。
しかも完全に中身が変わっています。自分の判断力が及ばない次第であります。誠に申し訳ないm(__)m

次からはしっかり推敲してから上げますので…、(^^;
(上記の内容が適当だとは言えないかもしれませんが…w)

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