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一騎討ち 〜くっつきバリの恐怖〜[後編]
「ねぇ・・・グスッ起きてよぉ・・・!」

 クロの悲痛な声に、グラムは目を覚ました。怪我をした太股には包帯が巻いてあり、止血されていた。 グラムは舌で受け止められた時、情けを掛けられた事に憤りを感じていたが、もう戦う気にはなれなかった。自分は負けたんだ・・・クロと、自分に。

「クロ・・・えっと・・・ごめんなさい・・・。」

「へっ・・・何で謝るの?・・・怪我させた悪い奴は僕だよぉ!?」

「いや・・・その、あんなことで喧嘩売って・・・自分のせいで怪我したのに、心配かけちゃったし。それに、クロの指に怪我させちゃったし。」

 クロは怪我をした自分の指を見た。さっきまでヒビが入っていたが、いつの間にか治っていた。輝く白金の爪には、涙で頬を濡らす自分の顔があった。

「グラムぅ・・・!」

フワッ

 ギラティナとはいえ、幼いクロは怪我をさせてしまった相手に謝られ、どうして良いか分からず・・・グラムのお腹に頭を押し付ける様に泣きついた。ふわふわとしたグラムの体毛に、絶え間無く流れるクロの涙が吸い込まれていった。
 (私・・・こんなに可愛い子になんて事を・・・それも、あんな理由で・・・!)

 グラムはクロが泣く姿を見て罪悪感に襲われ、泣き付いているクロの頭を優しく撫でて気を落ち着かせようとした。しかし、沸き上がるそれは落ち着くどころか更に膨らんでいき、彼女の心を押し潰そうとした。

 グラムの頬にも、涙が流れる。

「私・・・駄目よね・・・。罪の無いクロを傷つけたりなんかして・・・。生きてる価値なんて無いわよね。」

 グラムの最後の一言に、クロは凍り付いた。自分が泣いているせいなのかはわからないけど、一刻も早く落ち着かせなくては・・・。

「ひっ!?そんな事無いよぉ!だ、第一・・・そだ、ファウストはグラムがいた方が嬉しいと思うよぉ?」

「そう・・・でも、クロはそう思ってるの?私が居て・・・嬉しいの?」

 グラムは今回の事でショックを受けてしまったのか、過剰にネガティブになってしまっていた。全部自分のせい、自分があんなことで怒ったせい、自分がこんな奴だから・・・クロに怒られちゃった・・・(汗
 ふつふつと込み上げる、自分への恨み。彼女は自分を呪い、嫌いになっていった。
 そしてグラムは、ついに言った。

「もう、死ぬわ・・・。」

 クロの顔から、血の気が引いた。

「ま、待ってよ・・・何で急にそんな事!」

「わかってんのよ!!あたしの事嫌いなんでしょう!?居なくなれば良いと思ってるんでしょう!?」

 グラムは辺りを見回し、自分を傷つけ、戒める為の何かを探す。そして、凶器を見つけた。それは自分を貫いた、あの凶器。
 固まった自分の体液が一部を茶色く上塗りしてしまっている・・・。

「このくっつきバリ・・・あのときクロが持ってたって事は、私を殺そうとしてたんでしょう?あぁ、だから持ってたんだぁ〜w」

 グラムはくっつきバリを手に取ろうと手を伸ばす。そうさせまいと、クロは咄嗟に行動を取った。

 ガプッ!!

「んんっ!?んんん〜〜〜〜んっ!!」

ぐちゅ!ズムッ・・・ズブ、にゅむむ・・・

 クロはグラムの上半身をくわえ込んだ。グラムは抵抗したが、ぬるぬるで柔らかな舌で上顎に押し付けられて居たために、突っ張る腕はずぶっと舌に沈み、もがいた所で体は涎を擦り混むだけに終わった。

(グラム・・・お、落ち着いてええぇっ!!)

 クロは頭の中でそう叫ぶと、暴れるグラムの全身を口内に納めた。彼の牙はしっかりと噛み合わさり、僅かな隙間からは部屋の光が漏れてくる程度だった。

「ハァ・・・ハァ・・・。」

 グラムはそこから脱出しようと試みたが、クロの舌は窪んだ形をしていた為に、どんなにもがこうと涎でぬるぬると滑る体は中央に戻されてしまった。その上、巨大で規格外に柔らかな舌は彼女の体を沈ませ、彼女が動く度に皿の上のゼリーの様に揺れた。ぬるぬるで柔らかく、全身を漏れなく撫でられる感触の中で力一杯暴れまくった彼女の体は熱く火照り、指一本動かせなくなってしまった。

「グラム・・・駄目だよ・・・簡単に『死ぬ』なんて言っちゃいけないよぉ?」

「うぅ・・・クロ・・・っ。」

 クロは自分の口内に閉じ込められたグラムを、労る様になめ回しだした。
 伝わってきた味は、いつもとは違うしょっぱい味。
 グラムは無抵抗に、彼の口内で波打つ舌に揉まれていた。やがて彼女は落ち着きを取り戻し、頭の中には冷静な思考が戻ってきていた。

「クロ・・・私を・・・呑んで。安心したいわ・・・。」

「え?・・・うん、わかった。」

 口の中に、傾斜がついていく。
 体中にぬるぬるの唾液を纏わされたグラムの体が、ゆっくりと暗闇に消えていく。しかし、喉の入り口で落下が止まった。
 クロは心配していたのだ。グラムは炎タイプと呼ばれる属性を持っている。しかし口内はともかく、胃袋の中は何かしらの液体で満たされている事だろう。そんなところに自分との戦いで衰弱した彼女を送り込めば、命の危険があるのでは・・・?

「クロ・・・お願い・・・。」

「う・・・苦しくなったりしたら言ってねぇ?絶対だよっ。」

 グラムの声は心なしか、助けを求めているようだった。それに応えようと、クロは意を決して彼女を呑み込んだ。

きゅむ・・・んぐにゅ・・・っ

 クロの喉肉が収縮する。気を遣っているのか、余分に空気を含んだクロの喉の膨らみは揺れる事なく下っていく・・・。ふと耳を澄ますと、グラムの呼吸音が微かに聞こえる。それが途切れる事の無い事を願いながら、クロはその膨らみを見守っていた。
 収縮する喉の艶めいた肉は、グラムの体を撫でながら胃袋の方へと押していく。ぬらぬらとした熱いそれは彼女の耳や足、その指先から胸の方までを包み、解していった。全身をマッサージされているのと、暖かくて柔らかくて、自分より大きな者に抱かれているという現実が、後悔と自虐で冷えきった心を暖めていく・・・。

ぐぐぅっ・・・たっぷんっ♪

「きゃあ!?んむっ・・・あうぅ・・・。」

 心地よい抱擁のあげくにたどり着いた、胃袋の入口・・・噴門と呼ばれる所から、彼女の体は落下した。ギラティナの大きな胃袋はそれなりの高低差があり、入口から底へと落下する間には風を感じる程の高さがあった。もし底が普通の地面なら、頭から落ちれば命はないだろう。勿論クロの胃袋はそんなことはなく、落下してきた彼女の体を受け止めたのは、底無しに柔らかい肉のベッドだった。底無しとは言っても程よく弾力のあるそれは彼女をブヨリと沈ませ、プユリと押し返した。

「きゃっ・・・んあっ・・・!」

 喉よりも熱くて柔らかかくて、ぬらぬらと不規則に動く肉に包まれ、彼女の口からは妖美な声が漏れ出していた。驚きとも他の物ともとれそうな、変な声だった。

「クロ・・・ありがとう・・・。」

「うん、気がすむまで居て良いよぉ?」

 グラムはクロの言葉を聞いた後、下半身が埋まっている肉壁の溝の上で仰向けになった。それだけで大きく波打つ肉壁。ちゅるちゅるという粘液が柔らかな肉を掻き分けて進む音が耳をかすめる。
 全身が隙間無く肉に包まれる。首の周りも、脇も、耳も、脚の間も、顔も。動かなくてもにゅるにゅると動いてしまうそれは酸欠による彼女の呼吸を乱す。

「っむ・・・っう・・・!!」

 だんだん肺が苦しくなってくる。顔に吸い付く肉壁のせいで空気が吸えない。グラムは溝から出ようと腕を伸ばした。

ズブズブッ・・・

「っ・・・?んんっ・・・!?」

 溝から腕を出すことは出来たのだが、それを手掛かりにして上に這い上がる事は出来なかった。体を引き抜こうとしても腕は肉を押し込むばかりで、這い上がる事が出来ない。
 苦しい。彼女の頭には物事を考えている余裕はなく、体は水の中へ溺れる様に、滅茶苦茶にもがいていた。しかしどんなにもがこうと、聞こえるのは粘膜がくちゃくちゃと音を立てて混ざりあう音だけだった。

くちゅくちゅ、きゅっぷにゅるっズブックチュ・・・

 苦しみが薄れ、体の力が抜ける。だんだん気持ちよくなってきた・・・その時。

ぎゅむううっ!

「ぶはぁっ!!!ハァ・・・ハァ・・・!!!」

 突然、自分が溺れていた肉の溝が隆起した。それに伴って彼女の体はそこから押し出され、湿った空気が彼女の肺に雪崩れ込んだ。彼女は肩を上下させながら胃袋の側面の壁にしがみついていた。他の部分と変わらず手足が沈む程柔らかいそれは、しがみつくのが楽だった。

「だっ、大丈夫ぅ!?今出してあげるよぉ!!」

 荒い呼吸を整えている中、くぐもって聞こえてきたのはクロの声だった。それと同時に、胃袋がグニグニと収縮し始める。

「うわぁ・・・っ、あ、ちょっと!嫌ああぁっ!?!?」

 激しい収縮のあまり、グラムはしがみついていた胃壁から手を離してしまった。体中に付いた濃厚な粘液が壁と糸をひいた。
 不運な事に、収縮の為に縮こまった胃袋の底には大量の粘液が溜まっていた。彼女は成す術もなくそこへ落下していった。

トプンッ・・・ゴプン、ゴボボボポコココ・・・

 彼女の体は粘液の海に泡を立てて沈み、火照りと共に薄れていた意識は肺の中に入り込んだそれによって消えてしまった・・・。
14/01/20 23:29更新 / ファウスト
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■作者メッセージ
青海苔「え、ちょ、グラムぅ!?」

黒海苔「気持ち良さそうだが入りたくはない(キリッ」

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