呼ぶモノ

大学生になった僕は夏休みを利用して、オリバーに会いに行った。
これは現地で起きた出来事。

オリバーはマイアミ大学へ戻っていたため、僕はマイアミ行きの飛行機に乗って会いに行った。日本の夏も暑いが、マイアミほどではない。
「よお、ハル。大学は楽しいか?何を勉強してる?」
「英語にスペイン語にロシア語さ。」
「俺もスペイン語は取ってるぜ。専攻は経済学だけどな。」
「フィラデルフィアにはいつ戻るの?」
「2週間後だ。」
ちょうどオリバーも休暇を取っていたため、少しの間はいられそうだった。

オリバーのフラットに入ると、レシラムさんがいた。
「やあ、久しぶりだね、ハル!また会えて嬉しいよ!」
「こちらこそ、レシラムさん。」
ペロリ
レシラムさんの舌が僕の頬を優しく撫でた。
「美味しい。」
この時、やはりバクとユキは少々機嫌が良くなかった。
「レシラムさんよぉ、俺たちはあまりあんたとハルを一緒にさせたくないんだ。」
「何だよバク、ヤキモチかい?」
「て、てめぇな…」
「図星だね。」
バクの顔が少し赤らんでいた。
「ハルを離して。今すぐ。」
声を荒げたのはユキだった。
「ハルは私たちのオハナよ。あなたには関係のないはず。」
「わかったよ。そこまで言うなら…ごめんね、ハル。」
「いいんだよ、レシラムさん。」

「すまんが、こっちの部屋を使ってくれるか?」
「全然いいよ。ありがとう。」
オリバーの用意してくれた部屋には大きなソファとテレビがあった。
僕は早速横になってみた。いい感じだった。
するとバクとユキも僕の両サイドに横になった。
ペロリ、ペロリ……
「もう……臭いよ。2人とも。」
僕は2人に顔や身体を舐めまわされていた。
「やっぱりハルが一番美味しいわ。」
「たっぷり可愛がってやる。」
「君たち……やっぱりヤキモチ焼いてるんだ…」
ガブリ
「痛い、痛い!噛むなって!」
「ハル…今日まだ食べられてないでしょう?私が食べてあげる。」
「いいって…」
「遠慮しないでいいのよ。」
「してないよ。」
「もう、じれったいわね。」
グワッ
「嫌だ、嫌だ…食べないで!」
「うるさい!」
バクリッ
ユキは僕の上半身まで咥え込むと牙に力を入れた。
「痛いって!痛いっつってっぺ!(痛いって言ってるだろ!)」
僕が半ギレになったため、ユキは噛むのをやめた。
ごくん……

厭な臭いに包まれた胃の中で僕はあることを思った。
…ユキ、君はレシラムさんじゃなくて僕に怒ってるんだね……僕が、レシラムさんに抱きついたから、怒ってるんだね……悪かったよ…本当にごめんなさい……でも、これだけは言っておきたい……僕は君たちが大好きだよ……

ーーバク目線ーー
コンコン……
「開いてるぞ。」
「よぉ、バク。ハルは?」
ノックしたのはオリバーだった。レシラムの野郎じゃなくて良かった。もしそうなら、奴の顔面に一発入れていたはずだ。
「今お仕置きタイムだ。ハルになんか用か?」
「シャワーいつでも使っていいぞって伝えておいてくれ。あと、今日はレシラムがすまなかった。」
「奴を殴ってやりたかったが、それでチャラだ。また、何かあれば知らせてくれ。」
「わかった。」


次の日
「やっぱ、マイアミは暑いな。」
朝の時点で30度だった。
外は砂浜で青い海がすぐそこにあった。すぐ近くの店でパックされた弁当を買いオリバーを誘って砂浜で朝食を食べた。

この時点でまだ僕が怖いと思うほど不気味なことは起こっていなかった。

大体プレートランチを食べるときは外で海を眺めながら食べることが多かった。
…不気味なことが起こったのはその夜だった……
外は暑いのに無性に出たくなり、気がついたときには浜辺を海の方へ向かって歩いていた。
「ダメよ、ハル!」
ユキの声が聞こえた。
「ハルを連れて行ったら許さないから!地獄に落とすわよ!」
ユキは“なにか”に怒りをあらわにしていた。

僕が正気を取り戻したときには僕はソファに横たわり、オリバーやレシラムさんも僕を覗き込んでいた。
「ハル……無事?ごめんなさい…本当にごめんなさい……私たちがもっとしっかりしていれば…」
左腕には何者かの左手の握られた痕があった。

しかし、海で怖い思いをした次の日も、気がつけばオリバーと砂浜で食事をしていた。
「ねぇ、オリバー……さっき僕が砂浜で食べようって誘ったんだっけ?」
「たぶん、俺から誘ったんだ。」
僕はオリバーの“たぶん”という部分に疑問を持った。
「たぶん……って…」
「俺も覚えてないんだ。」
僕もオリバーも背中が冷たくなった。
さらに不可解なことに僕たちのいるところまで波が来ていた。
「怖いね…戻ろう。」
「そうだな……あれ…?」
僕とオリバーは足元を見た……砂の中に深く埋もれていた…
「何だよこれ⁈」
僕たちが埋もれた足を引き抜こうとしたそのとき……
「うっ……苦しい…」
深呼吸した僕を何かが襲った。オリバーも同じようだった。息をすると水が口の中に入ってくるような感覚だった。
そこに、レシラムさんとバクが駆けつけて僕らを砂から引き抜いた。
バクは僕の身体に手をかざしていた。
「地獄へ落とされたくなかったら、こいつの身体からゆっくり抜けていけ……」
『イ、ヤ、ダ……』
“何者か”が僕の身体を乗っ取っていたのがわかった。
「何故、こいつを“連れて行こうとする”⁉」
『イキテイルノガウラヤマシイ……ニクイ……コノコ…ヤサシイ……』
「こいつが優しいのは俺も充分に知っている。だがな、何の罪もない者を貴様の世界へ引きずり込むのは許されない行為だ……」
すると、僕は身体が楽になった気がした。

部屋の中でバクとレシラムさんが僕らに説明した。
「君たちは自然と海の方へ向かって行っただろう?君たちは呼ばれているんだ。」
「それって……ゴースト(幽霊)?」
「まあ幽霊と言えばそうだが、タチの悪い悪霊とか怨霊だ。一度狙った獲物は逃さねぇってつもりだろうな。」
「何で僕らを……?」
「そいつが“死んだ”ときの年がお前たちに近いんだ。とくにハル、お前は優しい。だからそういう者に憑かれやすいんだ。だからそいつらに絶対気を許すな。」
「わかった。」
「おいおい…幽霊が俺たちを殺そうとしてるって……どうやってだよ……」
「おそらく、溺死だろうね。どっちにしろ、水関係であの世へ連れて行こうとしているのさ。でも大丈夫。僕らがついてるから。」

その晩、ユキがずっと砂浜を見ていた。
「女の子の霊ね。赤く光ってるから悪霊よ。ずっとこっちを見つめてる。ハルかオリバーどっちも狙ってるんだわ。」
「ボディーガードみたいに張り付いてなきゃいけないな。」

そのとき……
「助けて!誰か!……助けて!」
窓の方から声が聞こえた。
ユキは声のした方に目を凝らした。
「なんてこと……おとり⁉……」
月明かりの中でポツンと沖に人のようなものが浮かんでいた。それは水しぶきも上げず、ただ水面に浮かんでいるだけだった。
「大変だ!」
オリバーは外に飛び出そうとした。
「ダメだ!オリバー……あれは……あれは罠なんだ!」
レシラムさんがオリバーを抱きしめて外に出ないようにした。
「あれは“死体”だ……」
「じゃあ……声の主は……」
「奴だ……」
オリバーを落ち着かせている最中、僕は身体が動かなくなっていた。
生まれて初めての金縛りだった。
「ハル!ハル!」
ユキは僕の身体に手をかざして何かを問いかけた。
「なぜあの子を連れて行った⁉」
『この子たちが、助けに……くると思った……』
また僕の口を借りて何かがユキに答えた。
「あなた……殺されたの?」
『ええ。…水面に顔を押し付けられて……息が出来なくて……犯人を殺してやりたい…』
「もう…この海を去りなさい。そしてハルの身体から出て行くことを誓いなさい。」
『嫌だ……するものか…』
「地獄へ落ちるか‼⁉私たちに魂を焼かれたいか⁉」
『この子の魂はワタシのもの……』
「もう許さない!地獄へ強制連行するから!」
ユキは僕の額に手を乗せるとパッと離した。
すると、断末魔のような叫び声を上げて“呼ぶもの”は地獄へ落とされたという。

しばらくして、僕はオリバーたちにお礼を言って日本へと帰国した。
帰りの飛行機の中でユキとバクと僕は話していた。
「何で金縛りのときとかに苦しくなったんだろう?」
「水面に顔を押し付けられて……窒息死だ。だから息をしようとしても水が入ってくる。そういうことだ。」
「2人ともいつもありがとう。」
「色々と世話かけて。帰ったら覚えておきなさい。食べてやるわよ。」
「はいはい……」
こうして僕らの不思議な旅行が終わった。






…………………………信じるか信じないかはあなた次第です……………………

オハナ:家族という意味

18/07/06 07:49 Haru & José(Pepe) & Javier

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