連載小説
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弟子のいる魔女
カチッ、カチッ、時計の音が響く。
儂は弟子であるピコのテストが出来上がるのを待つために彼女と向き合う形で本を読んでいるのだが・・・
「ねえ、師匠ー」
「・・・」
「師匠ってばー!無視しないでくださいよー」
「質問ならばとっくに反応しておるわ!どーせ主の事じゃ、儂に話をさせて筆記テストから逃げようとしておるのじゃろうが」
まったく・・・儂が説明する事に関しては食事の時間を削ってでも聞くと言うのに
「うぅ・・・紙に書いてある物なんて理論や理屈だけの世界ですよぅ・・・」
うぅ、と呻き声を上げて机に伏せるピコ
まったく・・・理論や理屈だけの世界を知らないピコには錬金術など向いておらんのだろう。と、思ったが・・・ピコは『錬金術』ではなく『魔女』として儂に弟子入りしたのじゃった
「・・・仕方がないのう・・・」
ガタッと荒く椅子を引き、ピコから距離を取る。
「儂の魔女としての特性の講義を始める。ピコよ、何があってもその場を動くでないぞ」
側にあった果物ナイフを取りそれを
ズブッ
自分の胸に突き立てる。
「!!」
慌ててピコが儂の元へ駆け寄ろうとするが、あらかじめ近寄れないよう描いておいた印によってピコを拒む
「その場を動くなと言った筈じゃ!案ずるでない・・・ほら、見ろ」
沈み込んだナイフを、するりと抜くと、一瞬で流れ出る血が止まる。床に落ちた血も床に染み込む様に消えていった。
「『リザレクション』どんな致命傷を受けても命の灯火は燃え盛る。儂の特性の中で一番厄介な魔法よ・・・もう近寄っても大丈・・・わっ!?」
いきなりピコが儂を抱き締めてきた
震える手で
泣きながら
力強く
「そんなの!口頭で説明してください!死なないからって・・・そんなの・・・」
嗚咽交じりに言われて儂は驚く
「す、すまなかったの」
まさか、儂が謝る事があろうとは思わなかった
「そんなに血が怖かったのかの?」
儂の問いに彼女は横に首を振る
「私が怖かったのは『自分にとって居てほしい人が目の前で消えてしまうこと』です・・・」
その言葉を聞いて儂はズキッと胸が痛むのを感じた。
頭痛がする
体が震える
『あのとき』を思い出して
それと同時に体が温かい。ピコの体温が伝わっているから?ずっと儂は冷えていたような・・・それが徐々に溶け出していく感覚・・・
ぼうっとそんな事を考えていると不意に頭の先にグリグリとた何かが押し付けられる
「師匠、良い香りがしますね・・・師匠と住み始めて同じシャンプー使ってるのに全然違いますよ♪」
いつの間にか泣き止んで儂の髪に顔を埋めるピコ
「や、止め、離しなさい!」
「ほっぺたなんてプニプニじゃないですか!わあ、伸びる伸びる♪」
ミョン、ミョン、と音が聴こえてきそうな程アタシの頬を引っ張ったり触ったりとピコは上機嫌のようだ。
・・・彼女も良い香りだし、その・・・体は包み込むように柔らかかった・・・本人には言わないけれど
あ、それと顔に豊かな物が押し付けられてすごく不快だった。後々自分のを確認してみた訳だけれど・・・見た目相応じゃったわ。たしか『前のアタシの姿』はもうちょっと・・・いや、そんな昔の話はよそう。でないと『あの子』に怒られてしまう。







「師匠!ご飯ができましたので席についてください!」
エプロンを着けて台所から出てくる我が弟子。飯ができたから席に着くなど何年ぶりやら
「いや、儂別に腹は減って「いいから座ってください」
むぅ、頑固な弟子じゃ!もうちょっとで新しいレシピの組み替えが済むというのに・・・
「私が来たからには師匠にはキチンとした生活を送ってもらいますよ!」
「主の知っておる『キチンとした生活』とは人間のモノであろう?儂は魔女じゃ。キチンとするもクソもないわ」
そう言って椅子の上でふんぞり返る。・・・我ながら子供じみている
「もう・・・私が来る前は一体どんな生活してたんですか・・・」
その台詞を待っていたぞ!儂はニヤリと笑い錬金釜を指差す。
「そこにな、釜があるじゃろ?これにな街に売ってるインスタント麺をな、いれるじゃろ?混ぜるじゃろ?出来上がる訳じゃ!」
ドヤァ、儂だって料理は出来るんじゃ!
「・・・錬金釜っていつ洗うんですか?」
なにを言うておるのじゃろうかこやつは
「こんなデカい釜洗うわけないじゃろうが。あ、それとな?この釜でな?コーヒーを作「汚いからやめなさい!」
怒られたのじゃ。綺麗に光る白髪が逆立っておる。
「もう魔女だからってなんでも許される訳じゃないんですから!今日から食べ物と飲み物(薬品除く)を作成は禁止です!それに栄養が偏ってしまいますから今後は私が料理を作りますからね!わかりましたか?」
「むぅ・・・そうか、じゃあよろしく頼むぞピコよ」
反撃が来ると予想していたピコは目を丸くして驚いた。当然じゃろう、儂自信ビックリじゃ。
自然に出た言葉じゃった
怒るどころか優しい気分になれた
頼りたいわけでもないのに
手を勝手に引っ張られるような
それがアイツに似ていて
「師匠!」
「・・・あっ、ごめん。少しボーッとしちゃってて・・・どうかしたの?」
ピコは儂の顔を見つめて不思議そうな顔をしていた。
「・・・なんでもないです」
「変な奴じゃ。すっかり飯が冷めてしもうた。」
目の前が少し霞むが直ぐに何ともなくなった。
夕飯を食べている間、ピコは儂の顔をチラチラと覗いてきた。なんなんじゃ一体。
ちなみに飯はデミグラスソースのハンバーグじゃったが・・・めちゃ旨かった。正直言って魔女になるより料理人になった方が良いのではないだろうか・・・
16/12/03 23:43更新 / イル
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