連載小説
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6
「寝ちまったな」

「見事なまでにね」

あの後、生け贄は俺の作り出した泡風呂を堪能し、よほど気持ちよかったのかそのまま睡眠を開始した。
しばらくして吐き出してみたものの、これっぽっちも起きることなくスヤスヤと寝息をたてている。

「図太いというか、なんというか…お前みたいな奴だな」

「いやいや、この場合悪いのは気持ちよすぎるギン君の胃であって、我々被食フェチじゃないと思うよ」

「誉めてると見せかけた責任転嫁か?中々やるな」

「誉めてるんだけどなぁ」

笑うシルガがなんとなくシャクだったので、俺はぷいとそっぽを向いた。
我ながら子供らしいとは思う。が、こいつの前ではどんなに着飾っても無意味。すぐに本心を当てられる。
やはり少々シャクだ。

「さて、次は私かな」

「ちょっとまて」

さも当然のように言うシルガに対し、俺は待ったをかけてみた。
まあ、大した意味はないと分かってはいるのだが。

「はいはい、そうと決まったら口開けて。いい加減素直になりなよ」

「やかましい、俺は素直だ」

しかしあれだな。やはりこう、やられっぱなしというのもいい気分じゃない。

そうするしかないと分かっていても、そうしたいと分かっていても。

少しくらいの抵抗は、認められてもいいんじゃないか?

「…シルガ」

「ん?なぁ」

に、とシルガが言い終わる前に、俺は素早くシルガに舌を巻き付けると、雷鳴のごとき速さで口の中に引きずり込んだ。
きゃあ、という何とも似合わん悲鳴が聞こえたような気がしたが、おそらく気のせいだろう。

甘噛みを開始。いつもより強めに、そして多めに。

「や、あ、ま、えええ?!」

錯乱しかかっているようだが気にしない。
牙を使うのではなく、上顎と舌で圧迫。その際、舌を使って上顎に軽く押しつけるといい味がする。

「ちょ、ギン君激しい、激しいってば、うわぁぁぁ!?」

そのまま舌でシルガをぽんぽん放り投げる。
と、口の中になにやらガサガサした感触が。
吐き出してみたらシルガの着ていた白衣だった。

…。
……今更ながら、とんでもないことをしでかしてしまった気がする。
この捕食が終わったら、俺は生きているのだろうか。

ええい、毒をくらわば皿まで!

俺は喉と舌を動かし、ゴクリとシルガを飲み込んだ。
彼女が胃に到達するやいなや、俺は胃の壁を使いシルガを拘束。
そして、先程の弱い胃液(強め)を発生させた。
弱いのか強いのかややこしいが、具体的には手足が痺れるくらいの強さだ。
と同時に、胃を動かしてマッサージを始める。口の中と違って、やさしく、ゆっくりと。

「ふぁ……」

さすがに酸性が強かったかと思ったが、そうでもないらしい。
みるみるうちに力が抜けていくのが手に取るようにわかる。
シルガの体から力が完全に抜けるのに、十秒もかからなかった。
寝たか、と思い拘束を解こうとすると。

「ぎ〜んく〜ん」

弱々しい声が聞こえてきた。
さては文句かと身構えていたら。

「たまには無理矢理食べられるのもいいものだね。ちょっと荒っぽかったけど、楽しかったよ。」

好評価を頂いた。
ほっと胸をなで下ろしていたら

「でもそれとこれとは話は別」

処刑宣告も頂いた。
殺気充分の。

……こいつを吐き出した時、俺はどうなっているのだろう。
不安が押し寄せてきたが、僅差で満腹感が勝利した。
なので、俺は目を閉じることにした。
後のことは、後で考えよう。
おやすみ。






「ぎ〜ん〜くぅ〜ん?」

「お、おう」

「妻である私をあんな目に遭わせるなんてさぁ。私、少しショックだよ。覚悟はできてるんだろうね?」

「いや、その、悪かったよ。ちょっとした出来心だ」

「…銀狼様、何をなさったのですか?」 

「起きたのか。いや何でも「聞いてよ、ひどいんだよ。ギン君ったら私の不意をついて白衣を脱がしてさあ」

「銀狼様…」

「誤解を招く言い方をするな!不意打ちで捕食しただけだ!」

「あ、そうだったんですか。申し訳ありません。てっきり…」

「…やれやれ、無理矢理襲いたいのならそう言えばいいのに。びっくりして全力抵抗出来なかったじゃん」

「別に抵抗は…すまん。俺が悪かった」

「本当に謝罪の気持ちがあるのなら、誠意として見せてもらいたいねぇ」

「う………どうすりゃいいんだよ」

「そうだねえ…捕食十連続!」

「おい、いくら何でも「少なすぎませんか?五十くらいがちょうどいいのでは」

「か、勘弁してくれ」

「いいねいいね、いっそのこと私と君、二人あわせて百連続ってのは?」

「な……く、仕方ない。生け贄、お前の村に力注いでくるから、それが終わったらな。」

「あ、ありがとうございます。でもにげてはいけませんよ」

「そうそう、逃げちゃだめだよ」

「ハイハイ、分かってるよ」

「…」

「…」

「結局こうなるのか…」

「…まあ、いいか」







了。
13/10/25 13:07更新 / 兜燐
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■作者メッセージ
完結。前回にも増して色々なことがありましたが、何とか終わらせることができました。

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