連載小説
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幼き姿の魔女
魔女狩りは恐怖と絶望に満ちた目で儂を見つめる。
しかし儂から見ればこ奴の方がよっぽど恐ろしい
命令一つあれば誰の命でも奪い取れるその心が。命を奪い、それを正義の為と言い張れるその心が。
儂のように過ちを犯し、人間でいる事を放棄した魔女、今という時を刻みながらいつまでも過ちを犯し続ける人間。
果たしてどちらのほうが愚かで無意味な生に執着(いぞん)しているのか。
・・・答えは儂じゃろうな。
「あ、悪魔だぁ・・・!」
魔女狩りが儂の体の変化を見て、震えた声で叫ぶ。
儂の体の魔女の部分が『獲物を寄越せ』と顔を覗かせ始めたのだ。
儂は獅子の姿に変化する。しかし、ただの獅子ではない。
燃えるように赤い体毛
蝙蝠のような深い闇の翼
丸い玉が重なったような蝎の尻尾
尽きぬ食欲を満たそうとする貪欲な合成獣
マンティコアだ。
「餌となる準備はできたのかえ?」
「やっ、やめ・・・ひいっ!」
首筋を舐めてやると怯えた声で喚く。
「そう言われて止めると思うか?」
たったままだった魔女狩りがその場に座り込んだ。腰が抜けたのだろう。
「おや、わざわざ食事しやすいようになってくれるとは・・・気が利く餌じゃの。」
恐怖と絶望で顔を歪ませる魔女狩り。
その顔をもっと見せろ
暴れろ
泣き喚け
怯えろ
儂はゾクゾクと高揚していく。震える程に気持ちが昂る。コイツの喉笛を噛み千切ってやるのもいい。痛めつけて死ぬギリギリまで楽しむのもいい。
こんなこと、人間から魔女になってすぐは考えられなかった。
でも、ひとつだけ魔女になってすぐ思い付いた食事方法があった。いや、人間だった頃からソレには興味があった。
「喜べ、すぐに死ぬことなない。痛みなど無い。お主は幸福者じゃ、儂に感謝するんじゃな。」
堅くて邪魔な鎧は剥がして、その辺に捨てておく。
儂は大きく口を開け魔女狩りの頭を頬張る。
「んぅ!んん!」
マンティコアの姿の儂はデカイ。それでも大人を口に納めようとするとなかなかキツイ。魔女狩りは苦しそうにもがく。
前肢を使いどんどんと飲み込んでいく。
「やめろ!やめろ!」
呼吸ができる場所を見つけた餌は必死に口内で暴れる。
「うざい」
ザクッ
ぎゃあ、口内から悲鳴が聞こえる。血の味。しまった、力加減を間違えたか。
そう思いしばらく口内で転がしてみる。どうやらまだ息はある。しかしもう長くはない。大木で遮られた空を仰ぎ餌を呑み込む。ごくり、と飲み込む音が辺りに響く。
「噛んでしまったのは勿体なかったのう・・・」
胃袋に感じる重みは動くことなくそこに溜まるだけだった。
「さて、昼食も終えたし帰るかの」
切り株に置いといたカゴを口にくわえてあるきだそうとする。
「あの!」
振り向くとそこにはさっき会った迷子の白髪少女が立っていた。
「なんじゃ、まだ帰っとらんのか。今は食事の後。見なかったことにして逃がしてやらんこともないぞ?」
儂は鋭く睨む。彼女は儂の目の前まで歩き儂を見つめる。そして頭を下げた。
「私を弟子にしてください!!」
「断る。」
魔女狩りよりも面倒で厄介な奴が現れたようだ。






私は今、師匠の家の前にいる。
「ほぇ〜、ここが師匠のお家ですかー。」
「師匠と呼ぶな。付いてくるでない。」
「やっと反応してくれましたね!森からの帰り道ずーっと無視するんですから!」
「・・・チッ」
獣の姿をした師匠(何て言う獣かはわからない)は嫌そうな態度で私に舌打ちをする。さっきまで膨らんでいたお腹。今は消化されて何も入っていないようだ。
そのままでは家に入りずらいからか師匠の体が人間の姿に戻る。私よりも小さい背丈。出会った時は帽子を被っていて見えなかったけどちっちゃい角。ちなみにその帽子は師匠が持っているカゴの中にある。綺麗な光沢を放つバッジが付いていたけど、あれは何か特別な物なのかな。
師匠の後ろに続いて家に入る。
「・・・お主、夕飯になりたいのか?とっとと帰れ。」
「いやいや、私は弟子になりに来たんですよ。」
「錬金術士なら他にもおる。」
「錬金術の弟子ではなく、魔女の弟子ですよ!」
「主、魔女をなんだと思っておる。あれは呪いじゃ。なりたくてなるもんではない。」
師匠はカゴから1つずつキノコや草を取り出してメモ帳に情報を書き込んでいる。
「錬金術なら少しだけ教えてやろうではないか。」
「魔女についてがいいです。」
それを聞いた瞬間師匠は持っていたペンを折り私を睨む。とても鋭く、冷たい目で
「何故魔女について聞きたがる!お主は魔女になりたいのか?ならば儂は知らぬ!」
「・・・私はとても小さい頃、魔女に命を助けられたんです。私は特殊な病気になりました。医者は全員首を横に振った。母は教会でいつも祈りました。」
私が話を始めると師匠は椅子に座って膝の上で頬杖を突く。どうやら話を静かに聞いてくれるようだ。
「ある日、母が教会で祈りを捧げていると、女の人が母に近付き『神様は全体を助ける。しかし、個人を助ける事はないよ。誰か一人のためだけに祈るのは無意味。今この教会で祈っている人の中で一番負の感情を持っているのは貴女だよ。魔女はそういったもののスペシャリストだからね。』と言ったそうです。」
急に師匠が「ふむぅ」と唸った
「儂以外にも魔女・・・か。お主、何処の者じゃ。その魔女はお主の故郷に現れたのじゃろう」
そう聞かれて私は躊躇ってしまう。あまり言いたくない。知ってほしくはないけれど。師匠の瞳が嘘を言うことも黙っておくことも許さない。
「キュベレ王国・・・です。」
「キュベレか、儂は生まれは違うがキュベレに住んでおったわ。リコリス錬金学園に故郷から通うには遠いかったしのぅ。」
「錬金学園!?キュベレ王国にしかなく、それも1つだけの錬金学園。」
「推薦されてのぅ。・・・っと話がどんどんずれておる。」
「あ、すみません!話を続けますね。
母は女の人に事情を説明しました。病気の症状も伝えました。すると女の人は『ん〜・・・もしかしたらその病気治せるかも。』と娘の元まで案内するよう頼みました。」
「質問じゃ。それはどんな病気だったのかのう?」
「体内の魔力がどんどん膨らみ、抑えられなくなった魔力が体を蝕む症状です。」
「なるほど、それは確かに魔女の得意分野じゃ。他者から奪い、枯らすのが魔女。話を続けてくれ。」
「そして私は彼女に助けられました。母は彼女にお礼がしたいと暫くの間、彼女に家へ泊まってもらったんです。彼女は非常に陽気な性格で私の遊び相手になってくれました。その時に私は彼女から色々な事を学びました。その中には錬金術の話も少しありました。『私、あなたみたいな魔女になりたい!』私は彼女に夢を伝えました。すると彼女は笑って『魔女は悪者だよ。でもね、魔女にしかできない幸せへの可能性だってある。今回のようにね。私はその可能性を信じたい。悪者は悪者でも救う悪者もいる。でもやっぱり悪者は悪者だ。それでもなりたいんだったら、まずは魔女に魔女について聞いてみなよ。大丈夫。魔女は敵意さえ見せなければどうってことはないさ。あとは、その時の魔女の食欲だけど・・・こればっかりは運だね』と軽快に笑いました。
そして彼女はいつの間にか私の家を去っていましたとさ。どうです、これで語り終えましたよ。これが私が魔女について聞く理由です。」
師匠は立ち上がり私に近付いてくる。
「魔女について聞きたいというのはわかった。中々な理由だと思う。もう一つ聞こう。お主・・・ああ、名前が無いと面倒よのう。儂はクロム=ネクロフィリアじゃ。」
「あ、すみません!ピコ=フィロソフィーです。ピコと呼んでください♪」
「ではピコ聞くが、魔女になりたいのか?」
「はい!なりたいです!」
それを聞いた師匠はニヤリと笑う。
ガシッと私の肩を掴み押し倒す。師匠の体は大きくなって、森で魔女狩りのリーダーを丸呑みにした時と同じ姿になった。
「儂に食われて一緒になれば魔女になったと言えるじゃろう?」
「そ、それって・・・」
捕食者の目だ。私はただの餌になってしまったようだ。
「溶けるまで可愛がってやろうではないか♪」
16/04/02 02:23更新 / イル
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■作者メッセージ
ようやく魔女の変身なににするか決まりましたー!
投稿が大分遅めになってしまいすみませんでした!
しかも捕食薄い・・・次は濃いくなるはずです

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