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暗がりの殺意

「全軍、突撃!」

 馬に乗った将軍らしき男がそう叫ぶと、約5000もの兵士や将軍達が一斉に前へと走り出す。向こう側からも同じ様に、大量の人間達が突進してくる。

「クク、始まったか・・・。」

 その人間達に滅ぼされたと思われる城の上で、白い竜は笑いながらそれを見て呟くと、殺しあう人間達を見ていた。

「うわあああああ!!」

「死ねぇ!死ね死ね死ねェェェ!!!」

 普通の人間なら思わず目を覆ってしまいそうな殺戮。あっという間に地が紅く染まり、血生臭い香りが立ち込めた。

「ヌゥ・・・相変わらずだな。何故、同属同士で殺し合うのか・・・。」

「ハハハッ!良いことだろ!無能でか弱く、愚かな生物など滅んでしまえ!そうだ、もっと殺し合え!クハハハハハ!」

バサッ、ドッ!

 紫の竜が乱暴な口調で言い、人間達を喰らおうと飛びたとうとした所を白い竜が止めた。この人数の人間を相手にするのは流石の竜でも無理がある。もっと減ってから襲うべきだと考えたからだ。

「グァッ!?離せよ!邪魔すんなアアア!!」

「おい・・・我に逆らうな!我はお前よりも力を持っているということを、忘れるでないぞ?」

 白い竜は、紫の竜を尻尾ではたく。

「ヌアッ!?・・・わかった。でも、人間が減ってきたら、俺が先に行くからな?あんた、雌なんだろ?雌を危険な目に会わせるのは・・・」

ガブウッ!

 突如、白い竜が紫の竜の首に噛みつき、押さえ込んだ。怒りのエネルギーが漏れ出したかの様に目が赤く輝いている。
 人間ならショック死している程の血液が流れているが、彼等にとっては擦り傷同然だった。

「黙れ!!我は・・・我は雌だが、お前程弱くなどない!現に今、お前を抑え込んでいる・・・。」

「グ・・・ォ・・・参ったっ!離してくれ・・・!!」

 紫の竜が、白い竜の体を軽く叩くと、白い竜は紫の竜を解放した。お互いゴォゴォと吹雪の様な音を立てて肩で息をしていた。

ワアアアアアア・・・

 一方、相変わらず辺りには人間達の叫び声や悲鳴、奇声・・・また、矢や岩が飛び交っている。人数は減るどころか、先程よりも増えている。恐らく、増援か何かだろう・・・。


ヒュンッ!!カツン・・・


 白い竜が考え事をしていたその時、風を切るような音がしたかと思うと紫の竜が白い竜の顔を翼で隠していた。そして、堅い音と共に音の正体が弾かれた。

「・・・っ!油断するなよ?俺が翼で矢から守ってやらなかったら、あんたの目は弾け飛んでたぜ?」

「う・・・うるさい!お前が守らずとも、矢の一本程度で我の目には傷一つ付かん!」

 白い竜はそう言い捨てると、崩れかけた城の中へ姿を消した。白い竜が地に降りた振動で、脆くなった壁や天井から砂埃が落ちた。

「ちえっ・・・礼くらい言えよ・・・。」

 紫の竜も後に続き、尻尾を叩きつけながらその中へ入った。恐らく怒っているのだろう・・・。


わああああああ・・・


カツン!カッ、ズシャッ!


 城の廃墟の外から崖の下で戦う人間達の声やら音やらが聞こえる。鉄がぶつかり合う音が絶え間なく響き、滅んだ城に隠れる二頭の竜達の頭を悩ませた。

「っるせぇな!鎧とか剣なんか、無くて良いのに・・・食いやすいし、うるさく無いし・・・。」

「何より、人間同士の争いが減る。争いすら無ければ、我らが此処で隠れている必要等ないのだがな。」

 二頭が話している中、すぐ近くの柱の裏で、一人の若い人間が短剣を片手に息を殺していた。

「俺には無理だ・・・しかし、王に逆らえば・・・どっち道同じか。」

「おい人間、聞こえているぞ?我にそこまで近づく事が出来たのは誉めてやろう。」

 白い竜が尻尾で後ろをなぎ払うと、人間が隠れていた柱が粉々に崩れた。
 人間はその一撃をスレスレでかわし、九死に一生を得た。

「おっ?わざわざ喰われに来てくれるとはなぁ。人間にしては利口だな。」

 紫の竜が人間を喰らおうと詰め寄る。しかし白い竜は、あっという間に尻尾で人間を巻きとり、自分の顔の前に持ってきた。

「おい!流石に俺の獲物だろ!!返せよ!!」

「まあ落ち着け。尋問ぐらいさせろ。」

 白い竜は、尻尾の中でもがく人間を気絶しない程度の強さで締め付ける。すると人間は大人しくなり、刃の欠けた短剣を地面に捨てた。自分を締め付ける尻尾を刺そうとしたのだろうが、竜の丈夫な皮膚には、「刃」が立たなかった様だ。
 しかし、紫の竜は尋問することに腹を立てた。

「尋問だと?そんな面倒なことする必要ねえよ!さっさとよこせ・・・腹減ってんだよ!!」

「尋問で情報を得れば、より多くの人間を喰らう事も出来るかもしれないぞ?」

 白い竜がそう言うと、紫の竜も大人しくなった。そして、今から世にも恐ろしい尋問が始まろうとしていた。

13/07/18 22:59 ファウスト

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