連載小説
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俺は銀狼。

誇り高き銀狼だ。

かつて天まで届くと言われたその背丈、 一晩で五つの山と三つの原を越えると言われている強靱な足腰。 鉄を易々と砕く牙に、一 瞬で岩を引き裂く爪。 その銀色に輝く体毛は、炎にあぶられても焦げ跡一つつけない。

こんな伝説を具現化したような存在の俺も、苦手なものは存在する。

「被食フェチ」と呼ばれる人間がそれだ。

彼、または彼女は自らを食べられることが大好きな人間で、食べるれることにその生涯を捧げる。ワケわからんと思う奴もいるかもしれんが、俺は事実を的確に述べているだけだ。ワケわからんのは被食フェチの方である。まあ実際俺もまだ全てを理解しているわけじゃないが。

食べられる、と言っても本気で噛み砕かれては死んでしまう。なので、被食フェチはもっぱら丸飲みもしくは甘噛みされることが好きな奴ら…と最近までは俺もそう思っていた。

だが俺の妻によると、被食フェチの中には極々稀に「噛み殺され」に目覚める奴がいるらしい。

妻もまだ会ったことがないそうだが、彼女曰わく「ドMを超越した何者か」だそうだ。さっぱり分からん、と言うか分かりたくない。

因みに俺の妻は被食フェチだ。そして人間だ。

激しく疑問に思うかもしれんが、それは置いておこう。

とりあえずは、目の前の問題を何とかしないといかん。
俺の目の前にいる被食フェチは「噛み殺され」には目覚めちゃいないようだ。

が、わざわざ酒に浸かってきたところをみると、相当な奴に違いない。

まったく、妻一人でも飲みこめだの舐め回せだの甘噛みしろだのうるさいのに、それが二人に増えるとは。大体食事ってのは活力を補給するものなんだぞ。逆に活力を奪われるとはどういうことだよ。やれやれ、俺が過労死するのも時間の問題か。

俺が暗い未来に想像を馳せていると、その被食フェチが怖ず怖ずと口を開いた。

「あの、私は生贄で、ラノスの村の代表で、その、村では凶作続きで、この身を捧げますので、えと、銀狼様に村を救ってもらおうと…」

・・・。
・・・・・。
ああ、生け贄か。
そういや、あの村の人間どもは俺を敬ってたな。

あそこの村は止せばいいのに毎年俺に貢ぎ物をしてくるからなぁ。見過ごすわけにもいかないか。
凶作くらいは大地に力を注げば何とかなる。こいつには適当に言って帰ってもらうか。

「ぎ、銀狼様」

俺が決めるのと同時に、その生け贄が恐々、だがしっかりと俺を見つめた。

「先程銀狼様は、[被食フェチ]と仰いました。それはいかなる人間でしょうか。どうかお教えいただけませんか。
私はその言葉の意味をぞんじませんが、もし私がその[被食フェチ]なのであれば、いかなる方法を用いてでも、その[被食フェチ]という称号を放棄いたします。」

ですから、と生け贄は頭を下げた。

「どうか村は…村はお救い下さい」

ふむ、なかなか根性のある生け贄だ。こういう人間が一人でもいる限り、俺は村を見捨てはしないだろう。まあ、どのみち村は救うつもりだったがな。

しかし参ったな・・被食フェチとは何かと聞かれても。下手に説明して目覚められたら困る。さて、どうするか。

その時、森に声が響き渡った。

「説明しよう!被食フェチとは、被、食のフェチである!」

声の主は、俺の背後に軽やかに着地。
相変わらずの馬鹿げた身体能力だ。

そう、奴は。

被食フェチで。

人間の。

白衣を纏い。

野山を駆ける。

柔く美味しい。

俺の、妻。

俺は振り向きざまにこう言った。

「説明になってねぇぞ・・・シルガ」
13/09/20 20:38更新 / 兜燐
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■作者メッセージ
お待たせしました。文化祭などでごたごたして、やっと書き上がったと思えば一週間後に試験とは。
次はいつ投稿できるんだろう…って前にも同じようなことを言った気が。

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