連載小説
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遊ぶ=喰う
さてさて、子竜が眠った七八(しちはち)時間後のこと。
日が西端の地平線を跨いで光を閉ざした後、また暫くして白い光が延びてきた。月だ。
今夜は満月。
満ち欠けの無いまあるいお月様というのは、これまた明るくぱっと透いた光を広げてくれるものだ。
岩山の南の方が白く照らされ表面がキラキラ輝いている。
その中間当たりか、ボコッと黒い大穴のようなものがある。
すると、
北の街の方よりその大穴にすっぽり入るような巨大な生き物がバサッバサッと一対の翼をはためかせて飛んできた。












「…んー…夜かぁ…。けっこう寝ちゃったなあ…」

太陽が照りつけて、洞窟の中に湿っぽさが籠る昼間とは打って代わり、日光が完全に退いた夜中はひんやりとした冷気が地面に染み込みほんのり涼しくなる。 僕たちは夜行性でもあって、昼間に獲物を取るだけ取ってきて夜の晩餐を楽しむということもあるんだ。
他の竜さん達はそうじゃないところもあるけど。

…そろそろ兄さんが帰ってくる頃だ。





その巨大な生き物、竜が大穴の入り口にさっと後ろ足を上手く縮めて降り立つと洞窟の中に長く影が伸びた。
「帰ったぜ、おー起きてるか?」

「ああうんっ、起きてるよ兄さんっ今日は何か捕まえて来たの〜?」

「いや…もう喰ってきた。老人一人と男一人ぐらいか?…いや憶えてねえっ。とにかく不味かったことだけ覚えてる。そういうお前は?」

「い…いや、僕はなにも。」

「んんっ?その腹どした?」

「えっ…?」

弟のぱんぱんになった饅頭のような腹を睨んで言った。

「なんで消化してないんだ?腹でも痛いのか?」

「い、いや…。そう言う訳じゃなくて…その。」

「人間の子供か…」

「え?何でわかっ…」

「いや大きさで判るんだよ。なぁ…そいつちょっとでいいから貸してくれ。」

「…なんで?」

「お前それ…遊び相手にしたいんだろ?」

「……」
弟は少し困ったような顔をして無言で頷いた。

「なあ…殺さねえからさ…少しの間だけでいいから喰わせてくれよ。」

来た、兄さんの口癖だ。

今度はいつになったら返す気だろうか。いやもしかしたら…兄さんの大好物だから、今度こそ返してくれないかもしれない…うむむ
そうこう悩んでいるうちに兄ちゃんが詰め寄ってきた。この前は外だったが後ろ上まして左右も岩壁で塞がれている、逃げ場はない。
いやどちらにしても、兄さんの体駆は僕よりも倍大きいんだ。勝てるわけもない。
 
「…それとも、お前ごと腹の内にいれてやろうかな?」

ニタニタ顔で恐ろしいことを言ってくる。半ば冗談に思えるが、どうやら本気のようだ。

「…分かったよ。」

暫く頭を垂れて諦めたようにそう言うと、直ぐ様吐き出す準備に掛かる。

「おぅまてまて!口移しで分けてくれよ。」

「はぁ?」

「せめて起きないように…口移しでそうっと…。」

「…はいはい。」


お互い口を近付けながら口を合わせて物の通過を待つ。
と言っても弟の方が小さいので兄の竜の口に突っ込む形で獲物を渡す。
首の下から膨らみが上がってきて喉元を通過した後、ぐあぁと口を開けて兄さんの口の中に獲物を吐き出す。胃袋の中で何時間くらい閉じ込めただろうか。
子供の目は開いたままだが動かない。気絶しているようだ。
膨らみが萎んで腹の内から寂しげにきゅるるると音が鳴る。


「…やっぱりお前も食いてぇなあ…。」

ふうぅと互いの息が混じり合い、濃い匂いが鼻に来るのを感じて、辱しめに頬を赤らめる。

「はあぁ…兄さん…」

「…いや冗談だよ。」

ため息混じりに一息浴びせかけると、ふと兄の方も恥ずかしいと言わんばかりに、明後日の方向を向いて口を閉じた。

空っぽになった腹を撫でると妙に寂しげな気持ちになって欠伸をしたくなった。腹一杯に空気を吸い込むと、空気が胃袋に送られ満腹になったような錯覚を覚える。
弟は深呼吸をしながらまた冷たい地面にごろりと寝転がり、きらびやかな満月を棚引いた雲が隠していくのを遠巻きに見つめて、至って幸せそうな兄の様子を眺めた。



そんな弟の様子をふと一瞥して、あぐっと完全に子供をくわえ込むと、牙を綴じ込み先ず舌を絡めて味わい始める。人間の子供って言うのはやっぱ肉がほんのり甘いのと柔らかいのと、まあ人間の言葉を借りれば、ほっぺが落ちそうな程美味い。ガキッガキッと牙の先端がぶつけ鳴らす。
舌の上に乗せたり上顎に擦り付けたりしてもこいつの体の柔らかさが伝わり、思いっきり噛み砕きたい衝動に駆られる。
だがそこを我慢して何とか舌で牙元に運ばせたくなる気持ちを抑えて激しく子供の主に胴体に舌を這わせて唾液を塗りたくる。気を付けなければ舌で力強く触れただけで子供の両手両足を変に曲げてしまう。
くうぅ…美味いっ
もっと味わいたいが、そろそろ獲物の意識が甦ってくる頃だ。
ぴちゃっという水音を最後に舌使いを終えるとクッと顎を空(くう)に上げて、目をそっと閉じ、後ろの弟にも充分聞こえるような音を立ててごきゅりと呑み込んだ。
たっぷり空気ごと子供の小さな体をねじ込むように、力強く呑むと重圧な嚥下感が喉元をしかと伝わった。
ぐぐぐ…と胃袋に子供のこんもりとした重量感が伝わって何となく幸せな気分になる。

だが、まだ満足するのには早すぎる。
ぼんぼん胃袋に微塵の衝撃が伝わってきた。

「ククッ…たっぷり苛めてやるよ。」

俺はじっくりと後方から弟の寝息が立つのを待った。
13/09/29 10:03更新 / みずのもと
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■作者メッセージ
因みに弟より兄の方が息の催眠効果は倍強いので同じ竜であってもモロ催眠効果にかかりやすいッス。
次は子供視点で書いていきます。

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